ザ・ウォール(2017年・アメリカ) バレあり感想 スナイパーがテーマのよくある系戦争映画かと思って観てみたら思いの外サスペンス!!
上映時間81分なんですが、そのうち70分くらいは映っているのが主人公を演じたアーロン・テイラー=ジョンソンただ一人!!
『キャストアウェイ』で通った道。
『ザ・ウォール』(原題:The Wall)
■あらすじ
イラク戦争での一連の大規模な軍事作戦が既に収束した頃、石油パイプラインの施設が行われている現場の偵察を行う為に派遣された観測主のアイザックと狙撃手のマシューズ。
だが現場には建設会社の社員と思われる人々の遺体と、米兵の複数の死体が横たわっていた。
二人は現場付近から十数時間もの間望遠カメラで監視を行うが、辺りに動くものは何も無い。
殆どの遺体が頭部を撃ち抜かれている事を不審に思い、スナイパーの存在を警戒するアイザックだが、マシューズは狙撃兵など居ないと判断し、パイプライン付近に残されていた小さな壁の付近に近づく。
しかしその瞬間マシューズは狙撃され重傷を負いその場に倒れてしまう。
マシューズを救出する為彼に近づいたアイザックもまた攻撃を受ける。
そしてスナイパーが放った複数の銃弾の一つが右脚に被弾してしまう。
斜線を遮るように残っていた壁の裏側に周り込むが、反対側ではマシューズが助けを求めている。
アイザックは無線を使用し援軍を要請しようとするが、無線機もまた狙撃により破壊されてしまっていた。
壁から出る事も出来ず、援軍も呼べない中マシューズは既に意識を失い、アイザックもまた失血により意識を失ってしまう。
気が付くと、アイザックのインカムに誰かが話しかけている声が聞こえていた。
味方からの通信だと判断し、その声に声に応えるアイザック。
だが会話するうちに、声の主の英語のアクセントに妙な訛りがある事に気付いたアイザックは、その会話の相手が敵のスナイパーである事を見抜く。
だが、スナイパーは正体がバレても尚アイザックに話しかけてきた。
「ただお前の事が知りたい」と言うスナイパーに対し、アイザックは会話をしながらその意図を探ろうとする。
アイザックはこの窮地を脱し無事に生還する事ができるのか。
■感想
ぶっちゃけ1ミリくらいしか期待してなかったんですけど、かなり面白かったですよ!!
・伏線がしっかりオチまで絡んでいる
この映画、序盤から伏線を張っておいて、最後にそれを回収してオチに絡めるタイプの映画なんですが、その伏線は全部まるっと回収される上にかなり綺麗な落とし方をしてます。
そしてストーリーの進行だけでなく、謎の敵スナイパーという存在の不気味さを引き立てる部分にも伏線がうまく絡められています。
察し投げ癖のあるJJエイブラムスはマジでこれ見習えよ。
まず序盤のシーンから。
アイザックとマシューズが現場に到着すると複数の遺体があります。
その殆どが頭部を綺麗に撃ち抜かれていて即死しているのですが、
不思議な事に彼らに逃げまどったり戦闘を行った痕跡が殆どないんです。
まずアイザックはここを不審に思うのですが、この数の人間を数秒で素早く仕留めるのはどんなスナイパーでも無理だとマシューズは判断してしまいます。
ここでまず軽いジャブ的に謎を提示してます。
それを一度置きつつ中盤以降も話は進んでいきます。
アイザックに話しかけ、その正体がばれてからも尚話しかけ続けるスナイパーの行動も伏線になってました。
中盤以降、アイザックとスナイパーとの会話の中で、アイザックがどんな人間なのか、
出身はどこなのかといった個人情報から最近の米兵の使うスラング、さてはその話し方などをスナイパーはどんどん情報として得ます。
そして終盤、そのスナイパーが餌を釣るための手口が明かされます。
要はこのスナイパー、アイザックのパーソナルデータを得て、アイザックに成りすまして米軍と通信し、次の餌を釣ろうとしていた訳です。
序盤の複数の遺体に関しても同じやり方で仕留められた人々である事がわかります。
現場作業員がまず狙撃され、作業員に成りすましたスナイパーが米兵をおびき寄せ、そして彼らもまた狙撃され……といった具合でこのスナイパーはどんどんスコアを稼いでいました。
そして狙撃した米兵に成りすまし次におびき出されたのがアイザックとマシューズでした。
アイザックはこの構造に気付き、終盤で彼に勝負を挑みます。
マシューズの持っていた狙撃ライフルを何とか回収し、スナイパーが潜んでいると思われる瓦礫の山を攻撃。
スナイパー側も反撃しますが、マシューズが射撃した後に反撃は無く、またスナイパーがおびき寄せた米軍のヘリが無事に現場に到着します。
ここでハッピーエンドかと思いきや、やっぱりそんな事は無かった。
まさに「やったか……?」を地で行く展開。
最期は死んだふりしてたスナイパーにヘリが狙撃され墜落。
スナイパーが米軍基地に対してヘリのパイロットのふりをして「万事オッケー」的な通信を入れているシーンでエンドロールへ。
無限ループって怖くね?
・見えない敵に対する恐怖演出がチョモランマ
上記した作戦でどんどん人殺してるスナイパーですが、それだけじゃなく狙撃の腕も相当である事が再三にわたって描写されます。
動き回るアイザックの脚と背負っていた通信機も意図的に狙い撃ったというスナイパーの発言を当初アイザックは信じませんでしたが、
話が進むにつれその腕の良さを次々に見せつけられ、彼の発言が本当である事をアイザックは理解します。
それにも関わらず自分を生かし、ひたすら雑談しようとする敵スナイパーに対してアイザックは不気味さを覚えます。
結果的には上記した手口の為に生かされていたのですが、その手口を上手く恐怖演出的に絡めていてこの辺り凄く面白かったです。
また、中盤でマシューズが意識を取り戻すんですが、
ここから二人で協力して一転攻勢の流れかと思いきやそれも失敗し、
おまけにマシューズは頭部を狙撃されて死亡してしまいます。
他にも、先に到着していた米兵の持っていた通信機を必死に回収し、それを使って通信しようとするものの、そちらの通信機も既に破壊済だったり。
アイザックがなんとか生き残るために様々な策を講じるのですが、その全てが阻止されるこの絶望感も良かったです。
この映画殆どアイザックの視点からしか描かれないので、追い込まれていく感覚がかなりリアルに伝わってきます。
ちょっと構造がシチュエーションホラーっぽい、というか『SAW』とかあの辺りと似てるんですよね。
本作はホラー映画では無いと思いますが、演出としてそういう要素を取り入れているのかも。
・その他
最終盤のシーンで、アイザックが助けに来た米軍のヘリの乗員たちに必死に「瓦礫に狙撃手が居る」と伝えようとするんですが、
米兵たちこれをことごとくスルーし、酸素マスクをアイザックにセットして運び出します。
ちゃんと人の話は聞こうな。
アイザックの警告をしっかり聞かなかった事が原因で結局ヘリ撃墜されてますし。
この辺りの「何やってんだお前ら」感は別の意味で面白かったです。
そう言えば、この映画劇中BGM殆どありませんね。
緊張感がずっと続くタイプの映画なので当たり前ですが、
それだけにエンドロールでゴリゴリに歪んだギターの音を聴いた時に変な感じになりました。
■まとめ
基本的には、正体不明のスナイパーの訳分からん行動に惑わされつつも生き残るために色々やる主人公アイザックの活躍を観る映画です。
ですが、その中でしっかり謎を張り巡らし、アイザックとスナイパーのそれぞれのキャラクターを見せ、オチも割としっかり決めてくるので個人的にかなり好きな部類の作品でした。
派手な戦闘シーンもほぼありません。
銃撃戦もほんの少ししかないです。
この映画バトルアクションでは無くサスペンス的要素を楽しむ映画です。
ポスターとか観て「戦争映画か……」って思ってしまいがちかも知れませんが、
むしろこの映画はサスペンス好きな人にオススメな感じでした。
ではまた。