『ブレードランナー』と『ブレードランナー2049』に出てくる言語について思う事、考察。
ちょっと考察崩れな感じの話です。
軽く聞き流してくれていいやつ。
『2049』に関しても言及するので意図せずにネタバレしちゃうことがあるかもしれないです。
- ■ブレードランナーの世界にある新言語「シティスピーク」について
- ■キリスト教圏の思想的バックグラウンドが関係してるんじゃないかと
- ■タイレル爺さんがシティスピークを創った説というのはどうでしょうか
- ■でも実際劇中でレプリカントはシティスピークを用いていないじゃん
- ■結局
■ブレードランナーの世界にある新言語「シティスピーク」について
映画『ブレードランナー』及び続編の『ブレードランナー 2049』の劇中には様々な言語が登場します。
一作目では特に日本語が多数登場します。
これはリドリー・スコットが来日した際に訪れた新宿歌舞伎町に、作品のビジュアル含めインスパイアされた事も関係していると思いますが。
一作目では主要登場人物達は主に英語を使用し、
多民族文化圏である事を描く為に日本語や複合言語のシティスピーク(日本語とかスペイン語とか中国語とかとにかく色んな言語がごちゃまぜになった新言語)を、あの世界を描写する為に登場させた感じです。
というか多文化圏というわりに一作目では英語と日本語とシティスピークしか出てきてないっぽいんですけどね。
続編である『2049』では一作目よりも様々な言語が登場していました。
ハングル文字やアラビア語なんかも出てきて、より多民族文化圏である事が印象付けられたように思います。
ところが、『2049』を観終えた後少し引っかかった部分がありました。
『ブレードランナー 2049』にはシティスピークを話す人が出てきません。
厳密には一人だけこのシティスピークを一瞬だけ口にする人がいるんですが、
その人物は前作でもシティスピークを用いていた折り紙おじさんのガフです。
ちなみに、デッカードも実はこのシティスピークを理解しているものの、色々面倒なので理解できないふりをしている、みたいな話もあったりします。
シティスピークというものが生まれた経緯に関して、
具体的に公式が提示した背景設定とかって多分無いと思うんですが、なんとなく想像は出来ます。
『ブレードランナー』の作中ではロスの街は現実よりも遥かに多くの人種の集まる多文化圏なので、当然のように色んな言語が飛び交っています。
上記したように実際作中描写でも主に日本語を用いてこれを表現してます。
冒頭のシーンでデッカードに日本語で話しかける店主のおじいさんのシーンや、
「なんか変なモンが落っこちってったぜ」という日本語がSE的に何度も多用されるシーンなんかがあります。
そんな街なので言語での意思疎通が一層困難なのは想像に難くないです。
初めて話しかける相手が一体何語を話す事が出来るのか、それをお互い読み合うみたいな時期が在ったのかもしれないと思うとちょっと面白い。
多分そういう背景を想像して生み出された要素が、シティスピークなんじゃないかなと個人的に考えてます。
SFの世界観にリアリティを与える為の要素というか。
ただ、ちょっと疑問に思っていたんですが、
シティスピークという多文化圏ならではの複合言語が存在するのに、なんで皆この言葉を使わないのかなと。
もちろん言語習得が単純に容易ではないという点もありますし、
ロスがそもそもは英語圏なので作中のキャラクターの皆が英語を使っている事はなんらおかしくありません。
デッカードも、レプリカントであるレイチェルも、折り紙おじさんのガフも基本的には英語を使ってますね。
それにしてもあまりに浸透してないように思います。
もしかしたら劇中の2019年のあの時点では生まれたばかりの言語だったのかもしれません。
故に浸透してなかったのかもしれません。
ですが、『ブレードランナー 2049』の時点でも、シティスピークは浸透して無さそうでした。
それどころか、一作目よりもより多くの言語が登場している事から、
多くの言語が入り混じっている状態でも、2049年ではもう問題が無いという事なんでしょう。
言い換えればシティスピークはもう必要がなくなったのではないか、と解釈しました。
そして、僕が今回考えようとしているのは、
シティスピークとレプリカントの関係性についてというものです。
■キリスト教圏の思想的バックグラウンドが関係してるんじゃないかと
バベルの塔についてちょっと言及します。
バベルの塔とは、旧約聖書の創世記中に登場する人類によって建設される巨大な塔の名称であり、物語です。
ご存知の方が圧倒的に多いと思いますが、
内容をごく簡単に書くと、
「人類が技術を用いて神に挑み、巨大なバベルの塔を建設するが、神はこれを破壊し、人類がこのような事を繰り返さないように人類を各地に散らし、言語もバラバラにした」
みたいな感じです。
「なんで唐突にバベルの塔の話してんのコイツ」等と思われそう。
違うんです聞いて下さい。
ちゃんと理由があるんです。
『ブレードランナー』の監督であるリドリー・スコットはイングランド出身でアメリカで活動をしています。
この双方ともキリスト教圏であり、彼自身も幼い頃から恐らくキリスト教と密接にかかわって生きていたのでは無いかと思われます。
彼自身がキリスト教徒であるかは別として、です。
キリスト教圏で生きている人にとって、思想の根底には旧約聖書の記述の影響が色濃く残りがちであるという事は、僕達日本人の方が第三者的な立ち位置で理解できると思います。
キリスト教圏に限らず、宗教的なものというのは、思想の根底に影響するものです。
アメリカの多くの映画作品で、
実際にこの”キリスト教的演出”というものは散見されます。
演出に限らず、その作品に込められるメッセージにもこの影響というものが見られる事があります。
で、リドリー・スコット監督の作品を改めて思い返すと、
アンチキリスト的な作品がちらほらあります。
『プロメテウス』なんて露骨にキリスト教の聖典である聖書そのものにおける神の否定から入る映画ですしね。
ほんとよくこれをアメリカでやったよ。
『ブレードランナー』も、そういった側面がある作品です。
レプリカントは人類によって創造された人造人間です。
「レプリカントって言う程人間と違うか?」がテーマにあるブレードランナーですが、
人間の科学技術によって創造された新たな生命体であるという解釈をすれば、
少なくとも別種である事は間違いありません。
旧約聖書において、人類は神によって作り出されました。
言ってしまえば、これは神様的にはアイデンティティみたいなもんな訳です。
『ブレードランナー』においても、この神の特権みたいな生命の創造が既に人類によって再現されており、
リドリー・スコットには煽り癖があるのかもしれない。
ここで、今一度バベルの塔について思い返してみます。
特にそのオチというか、「人類が反逆をしないように、言語をバラバラにしてしまった」という点に着目します。
ブレードランナーの世界ではタイレル社がアンドロイドであるレプリカントを生み出したことで人類は神の領域に到達しました(現実世界でもクローニングとか既にありますが)。
人類が、というかタイレル爺さんが、と言っても良いかも知れません。
さて、レプリカントを生み出した瞬間にタイレル爺はまさに神様に匹敵しました。
きっと歓喜もしたでしょうが、それと同時に(或いは以前から)懸念もあったのではないかと考えられます。
「レプリカントが将来反乱とかしたらどうしよう」と。
実際作中でも、対策措置の一つとしてネクサス6型には「四年の寿命」というものが用いられてます。
これが原因で結果的に反乱を起こされてるんですけどね。
しかし(少なくとも作中では)前代未聞な訳ですよ、人類による新たな生命の創造というものが。
しかしキリスト教圏には、聖書がありました。
そして聖書には、創造した生命に対してどう接したらいいのか、失敗談を交えつつも前例と対策が載っている訳です。
タイレルはきっと参考にしたに違いない。
「ちょっとこの流れは無理やりじゃね」って思い始めましたね。
俺もだよ。
■タイレル爺さんがシティスピークを創った説というのはどうでしょうか
まぁやっぱりキリスト教圏出身なので、このバベルの塔の逸話は知っているに違いありません。
で、前項のように聖書にヒントを見出して、レプリカントの制御の為に何か策を講じようとしたのではないかと。
「レプリカントもその内コミュニケーションとか取り合って反乱を起こすかもしれないぞ! あのバベルの塔のお話みたいに!」と危惧したかもしれません。
そして聖書では「言語をばらけさせてなんとかする」という対策が載ってます。
しかしレプリカントにはこれは恐らく通用しません。
そもそも、この”対策”を講じられた世界が今の世界なので当然ですが。
ここでレプリカントが何のために生み出されたのか思い出しましょう。
彼らは人類の奴隷として使役される為に生み出されました。
その為彼らは、時に見知らぬ惑星の開拓なんかもやらないといけないわけです。
そう言った危険な任務は殆どレプリカントのみに行わせる世界とも言えます。
危険な現場に居るのはレプリカントのみです。
言い換えれば、レプリカント同士でコミュニケーションさえ取れれば問題が無い、とも考えられる訳です。
人間が従来用いていた言語を知る必要は無いのではないかと。
もちろん秘書なんかのもろに人間と関わらないといけないレプリカントには人類の言語をインプットしますが、基本的に奴隷である彼らには必要のない知識であると考えてもおかしくはありません。
その上、人類とのある種のコミュニケーションの制限にも繋がります。
万一に反乱を起こそうとしても、言葉が違えばその準備段階から苦労の連続ですし。
そして、レプリカントの為の言語として、天才タイレル博士が生み出したのがシティスピークなんじゃないかと、僕は考えたわけです。
ガフがシティスピークを話せる事や、デッカードもシティスピークが理解できる点に関しても矛盾しないのではないかと思います。
(少なくとも制作時点では間違いなくこのデッカード=レプリという設定は存在していないという事なので、悲しいがなこの時点で僕は負けているのですが)
デッカードがレプリカントであればシティスピークを潜在的にインプットされていたんでしょうし、
そうでなくとも対レプリカント部署に所属しているデッカードなら、
彼らの専用言語くらい知っていてもおかしくはないはず。
ガフも然り。
ラストシーンのユニコーンの折り紙のシーン、あれはファイナルカット版なんかの登場と描写から、デッカードに対しての暗示(デッカードのユニコーンの夢をガフが知っている=埋め込まれた記憶である)とされてます。
同時に、ガフにはデッカードの監視という役割があります。
デッカード=レプリ説前提になってしまうのが最高に悔しいですが、
彼を監視するという事はレプリカントの監視をしているということで、ある意味で彼もブレードランナーみたいなもんでしょうよ。
それならシティスピークも話せるはずではないかと。
どうでしょう!!!
だいぶ無理やりな事になって来てますよね!!!
まだ終わらないから。
■でも実際劇中でレプリカントはシティスピークを用いていないじゃん
単純に、タイレル爺さんが「もっとマシな方法あるわこれ」ってなっただけで、
実際にはそこまで力を入れてレプリカントをシティスピーク漬けにしてなかったとか……。
レプリカントがもう生み出せそうまもなく成功しそうor成功した直後にタイレル爺さんが関係各所に、
「こんなの出来たけどこいつらは独自の言葉基本的に話させるよ、念の為警察の皆とかこの言語覚えておいてね」
みたいな通達を早とちりでしちゃって、
でも結局その後もっといい対策が思いついてレプリカントにそれを導入した結果、
シティスピークは誰が用いるのかも分からない形骸的なものとして残った、
みたいな感じにすればどうにか自然に纏まりますかね。
警察であるガフがシティスピークを話せる点にも紐付けできますし。
ちなみに『ブレードランナー』の舞台である2019年以降にも、
レプリカントは繰り返し反乱を起こし続け、
最終的にレプリカントの製造は禁止されます。
後にウォレス社がタイレル社を買収し、脅し染みた諮問会議を得てレプリカントの再製造に着手することになります。
そして『ブレードランナー 2049』の世界に於いて、
タイレル社製のレプリカントは禁止法以前の危険なレプリカントとして問答無用で処分される立場にあります。
言うなれば、タイレル社の旧型レプリカントが徹底的に排他されている時代が2049年です。
この時代に置いて、シティスピークという言語が死に体なのは、
単純な話、その本来の話し手がどんどん引退しているからなんじゃないでしょうか。
そうなるとブレードランナーはじめ警察の面々も、この言語を知る必要が次第に無くなってきますし。
『2049』の世界でシティスピークが廃れると同時に、より多くの言語が入り混じっているのは面白いです。
ただこれは今回のガバガバ考察とはあまり関係無さそうなんですけどね。
奴隷であるレプリカントが存在しなくなり、より人類同士の協力が不可欠になった結果、それまでよりも更に言語的な多様性が街に必要になったって事だと思います。
■結局
多分違うんでしょうね。
というかメタ的な事言えば、シティスピークはあくまでSF的にあの世界を見せる為の1要素でしかないわけですし。
ただ、たまにはこういう事を考えるのも楽しいです。
『ブレードランナー』はそういうSF好きの心を擽る要素がてんこ盛りの映画だったからこそ、評価されていると思いますし。
ここまで読んでくれた人は本当にありがとうございます。本当に。
一つだけ言うなら、ブレードランナーが本当に好きだからこそこんな記事を生み出してしまったという事なんです。
ブレードランナーとブレードランナー2049の感想記事もあります。
暇つぶしに読んで。
ではまた。
- 作者: ハンプトン・ファンチャー,マイケル・グリーン,渡辺信一郎,ポール・M・サモン,大野和基
- 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
- 発売日: 2019/06/07
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
ブレードランナー ファイナル・カット <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
- 発売日: 2017/09/20
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (1件) を見る