アイアムアヒーロー(2016年・日本) バレあり感想 ゾンビ映画としても漫画の実写化映画としても大当たりだこれ。
ここをキャンプ地とする (富士ロイヤルアウトレットパークにて)
■ストーリー
多臓器不全及び反社会性人格障害という、人間がゾンビみたいになって人間を喰って仲間を増やすというとても危険な病気が蔓延して日本がヤバい。
日本がヤバくなっても中々気持ちを吹っ切れない鈴木英雄君の生き様を見守る話。
■感想
原作漫画の最初の方しか知らないのと、それを読んでいたのもボチボチ10年くらい前で記憶も曖昧なため、あくまで映画単体として観た感想で書きます。
ゾンビ映画としてとても良くできている映画だと思いました。
謎の感染症の蔓延で人間がどんどんZQN(ゾンビみたいなもん)化して国がパニックに陥っていく様子と、生き残って富士山へ逃げ延びた人々の姿、そして最後にはZQNとの戦いが描かれます。
オーソドックスなゾンビ映画らしい流れを綺麗に踏襲しつつも、その過程で描かれる主人公の英雄くんの成長もしっかりフォーカスされていました。
また、日常が狂っていく様の描き方が上手く、直ぐに映画の世界に引き込まれます。
序盤から中盤までの物語の盛り上げ方がとてもいいですね。
一気にZQNが増えて襲い掛かってくるのではなく、徐々にZQN化が蔓延していく様を描いていました。
そこに日本人らしい特有の無関心も同時に描かれていて、妙なリアリティがあります。
通勤中のサラリーマンや、気怠そうに通学する学生が疎らに歩いている直ぐ近くで、ZQNが人間を追いまわしているというシチュエーションはかなり印象的です。
それを横目に「変なやつがいる」程度の反応しか示さないそれら一般人の描写が中々に現実味があります。
いわゆる正常化バイアスってやつですか。
また、上記のシチュエーションを起点に、ある程度の長回しでパニックが拡大していく様を描いていて、見せ方がとても上手いです。
時々ZQNが人を襲っている程度の道路から、次第に多くの人がZQNから逃げ回る道路へと、英雄が歩みを進めるのに合わせてどんどん状況が危うくなっていき、その情景を一連のカットで描いています。
主人公の英雄も含め、劇中のモブを含めた人物の殆どが、手遅れになってようやく事態に気づいているというのが面白いです。
例えば他のゾンビアポカリプス作品に見られる「ゾンビの存在を信用しない人々」のそれとは少し趣向が違っていて、
『アイアムアヒーロー』の世界の日本人の多くは、ZQNの存在やそれがもたらしている緊急事態を、手遅れになるまで認識していないという違いがあります。
英雄なんてこのシーンの前にZQN化した自分の彼女やらアシスタント仲間やらと対峙しているのにも関わらず、決定的な危機感を覚える描写が殆ど無いですし。
映画の冒頭から作中のニュースなどで何か起きているという事は示唆されていて、徐々に世界がおかしくなっている様も描かれているのにも関わらず、英雄がその事態に直面しても、しばらくは淡々とした雰囲気で物語が描かれているのがこの映画の特徴の一つだと思います。
原作漫画では主人公英雄の日常描写がやたら多かった思い出があります。
この映画では英雄の日常描写という部分はあまり描かれません。
代わりにその英雄の視点でパニックが起き始めた世界をマスクする事で、映画に上手くメリハリを付けているように思いました。
この後、逃げる途中で出会った女子高生のヒロミと富士山を目指すパートになります。
ここは休憩パートみたいなもので非常に静かです。
ヒロミの半ZQN化もここで描かれますが、劇中で何故ヒロミは他のZQNと差異があるのかは明かされません。
原作漫画の最初の方しか知らないので僕もこの半ZQN化の理由は分かりませんが、
兎に角ここで妄想癖強めの射撃が得意なおっさんと半ZQN化して凄いパワー持ったJKのコンビという異様な組み合わせが完成します。
絶対この後何かしてくれそうな組み合わせ。
次の展開に期待させるような要素をキャラクターに持たせてくるのも中々面白い手法だと思います。
映画の後半では、富士ロイヤルアウトレットパークに集った生存者達と、ZQNとの戦いが描かれます。
ここまでの流れも完全にオーソドックスなゾンビアポカリプス作品のそれですね。
生存者達のコミュニティが出てくることや、ショッピングモールが舞台になるというのはもはやこの手の作品の不文律みたいなものです。
これが無いと物足りないという人も多いみたいです。
この後半の展開、とくにZQNと人間が戦うまでの過程ですが、よくある防衛線の崩壊という要素もありながら、基本は人間同士の潰しあいに起因している部分も面白いですね。
生存者コミュニティのリーダーである伊浦が実質この映画のボス枠で、色々あってニートにコミュニティでの主権を奪われてしまった為、このニートを始め自分に反旗を翻した人々をZQNに襲わせます。
そうして伊浦のけしかけたZQNと生存者達の戦いが発生する一方で、ZQN側も自力で生存者コミュニティに侵入してくる奴が出てきたりと、この辺りの怒涛の二重展開は他のゾンビ映画ではあまり見られないような気がします。
ここに来てようやく英雄君がショットガンを使用する事を躊躇わなくなり、画的にも物語的にも盛り上がり所がふんだんにあって楽しめます。
この英雄君が最後の最後にようやく覚醒したかのように頑張るまでの過程の描き方も上手いと思います。
特に苦悩や恐怖との葛藤と対峙という面をしっかり描いているのが好きです。
ゾンビ映画は死の恐怖が前提にあるジャンルではあるものの、死ぬことへの恐怖感そのものと向き合う様をじっくり描いた作品は意外とレアなケースな気がします。
序盤から描かれていた英雄の妄想癖描写が後半で上手く効いているのも特徴です。
この映画、英雄の妄想描写が上手く演出としても取り入れられているように思います。
最初はそれが単に英雄のキャラクターを表す描写でありながら、映画的には引っ掛けの要素も併せ持っていました。
「銃を取り出していよいよ戦うかと思いきやそれは妄想でした」みたいな。
後半でこの妄想描写が英雄の葛藤という部分にリンクします。
ロッカーの中に逃げ込んだ英雄、すぐ外には大量のZQNが居るため暫くはロッカーに身を潜める事にします。
ところが無線を通して小田つぐみ(ヒロイン枠)からのSOSが聞こえてきます。
英雄はロッカーを飛び出して右手に持ち合わせた小っちゃいハンマーのような物でZQN二体に挑みますが、あっさり取り押さえられ捕食される、
という妄想を何度も何度も繰り返してしまい、死の恐怖に立ち向かえなくなってしまいます。
それでも英雄はシミュレーションを重ね、ZQNの突破方法を見つけようとしますが、いくらやっても最後には死んでしまい、諦めかけます。
しかし、無線からの小田つぐみの激昂を受け、遂に妄想では無く実際にロッカーを飛び出します。
一連の苦悩や葛藤の部分に英雄の妄想癖を組み合わせて、実際に行動できない自分への葛藤と死への恐怖を乗り越え、妄想では無く実際に行動する人間に成長する様を描いていました。
このシーン自体の時間配分なんてそこまでありませんが、それまで描かれた英雄のキャラクターなんかも上手くここに収束しているような気がします。
結構お気に入りのシーンでした。
日本での漫画の実写化映画として久しぶりに当たりの映画だったように思います。
近年の日本での実写化作品で強く出ていた傾向として、元ネタの作品のファンに向けたかのような作風のモノが多かったように思います。
尚且つそれで失敗しているのが残念です。
かゆいところに全く手が届いていないのにも拘らず、衣装などは徹底的に原作重視にして、話も原作の内容を掻い摘んだようなツギハギのような内容の作品が兎に角多いです。
そして、登場人物のキャラが崩壊していたりオリジナル要素の投入で更にゴチャゴチャした作りになっていたり、そういう事は正直よくあると思います。
ただ、この『アイアムアヒーロー』は、漫画原作ベースでは無く、あくまでまず映画作品としてベースの部分がしっかり作られているので、多くの国内実写化作品に対する違和感や不満点はほぼ見当たらなかったように思いました。
■まとめ
出来のいいゾンビアポカリプス映画として存分に楽しめました。
映画の流れとしては特別なものは無く非常にオーソドックスに展開していきます。
キャラクター達の個性や、英雄の妄想描写などで他作品と大きく差別化出来ていると思います。
ジワジワと事態が悪化していき、そこから爆発するかのように怒涛の展開が始まり、最後には一皮むけた英雄がショットガン無双もしてくれます。
ゾンビ映画でもありながら、ヒーロー映画でもあるのかもしれません。
散々話題になった映画ですし今更言うまでもないと思いますが、オススメです。
ではまた。