アド・アストラ(2019年/アメリカ) バレあり感想 ※独自解釈・考察要素強め 観るアンビエントミュージックみたいな映画です。
※僕個人の解釈、考察が多量に含まれた感想記事になりました。
観る前→「こりゃ面白そうなSF映画の香りがムンムンに漂ってやがるぜェ!! さぞ楽しませてくれるんだろうなァ!?!?」
観た後→「助けてプラトン」
『アド・アストラ』
(AD ASTRA)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
太陽系の果てまでオヤジ狩りに行く。
■感想
この映画、極秘任務に就いていた主人公ロイの父親の謎を追い、接触を図るべく旅立つという物語と、ロイ自身の内面の物語という二面性のある物語でした。
そしてどちらかというと後者の、ロイ自身の内面、心の物語というのが主軸にあるんじゃないかと僕は考えています。
主人公自身の情動が殆ど無い状態から物語が始まります。
大規模な電磁波障害サージによって世界が混乱に陥っても、自身が超高高度から落下しても、月面で資源目当ての勢力から攻撃を受けても冷静で、ある意味では無そのもののようなロイ。
自滅傾向にあるだとかなんとか劇中で言われていますが、とにかく生きながら死んでるみたいな感じの人間性です。
そんなロイが主人公なだけあり、 前半から中盤辺りは物凄く、本当に引くほど淡々と物語が進んでいるように感じました。
中盤からロイは父に対して怒りの気持ちを抱いている事を自覚しました。
怒りをきっかけに、父親に対して怒り以外の気持ち、愛する気持ちなどもある事を自覚するに至ったのかと思うんですが、
とにかくそれが起点となっていて、中盤以降のロイは目的意識を持って行動するようになりました。
というのも、当所ロイは父親クリフォードと接触するという作戦に対して、あくまで上からの命令だから……といった状態で参加していました。
なので、中盤以降のロイの感情の自覚と、目的の芽生えという二つは大きな変化なんじゃないかと僕は考えてます。
孤独を求めていたロイが、海王星までの70日強におよぶ孤独のシャトル内生活で、発狂寸前まで追い詰められてくシーンがあります。
自分の目的として、父親の居る海王星に向かうという意識があったからギリ耐えられてたのかなって。そんな風に考えています。
最終的にロイは目的である父親クリフォードとの接触に成功し、クリフォードとのやり取りを通した上で、多分ですけど生そのものの自覚に到達したのかなと、僕個人は解釈しています。
それはシンプルに生きるという面でもそうですし、孤独からの解放を望み地球に決死の帰還を図ろうとするクライマックスのシーンなどからも、前半とは明らかに違うロイのバイタリティみたいなものを感じたからです。
探査船のパーツぶんどって、盾替わりにして海王星の環に宇宙服のままで突入したり、核爆発の衝撃波でシャトルを加速させたり、後半のロイは明らかに活き活きとしていると思います。変な話、楽しそうですらあるわけで。
そんなロイや地球の人々が探していたロイの父親クリフォードですが、彼はロイと真逆の立ち位置からスタートしています。
地球外生命体を見つけるという重要な任務で地球を旅立ったクリフォードとクルー達。
クリフォード自身が地球外生命体の発見という目的に人生を捧げていて、劇中でもロイと再会した際に家族や地球の事はどうでもよいという旨の発言もしていました。
そして、そもそもロイが旅立つきっかけにもなったサージに関しても、このロイの執着とも取れる目的達成への熱意がある意味で原因です。
クリフォード以外の"リマ作戦"のクルーは、いくら旅を続けても地球外生命体が見つからない事に対しての諦めと、地球に帰りたいという気持ちから反乱を起こしました。
反乱の際に地球帰還作戦の一環で反物質を用いた機器(ここ詳しく聞きそびれました)をぶっ壊したらしく、
その結果サージが発生するようになったとの事です。
クリフォードは地球帰還を阻止すべく自身以外のクルーの生命維持装置を切って殺害し、たった一人で16年間も地球外生命体を探して旅をしていました。
そして、地球を旅立ってからロイがやってくるまでの16年間、クリフォードは唯の一度も地球外生命体には接触できていません。
それでもクリフォードは目的に執着し、虚空を見つめ続ける狂人になっていました。
無と同然だったロイが目的意識を持つことで生を認識したのに対して、クリフォードは目的に呑まれて無になってしまったみたいな、そういう対比になっているのかなと思います。
後半の、クリフォードが現れてからのロイとの二人のやり取りが、とにかく凄い悲壮感というか、悲しみに包まれているように思いました。
ようやくクリフォードと接触できたロイの前に現れたのは、ロイの記憶の中に居た英雄の父とは程遠い、殆ど抜け殻みたいになりつつも地球外生命体との接触という目的だけにしがみついた老人だったわけで。
ロイはそんな父親を連れて帰還しようとしますが、クリフォードは自ら死を選択します。これも悲しいです。
クリフォード自身が地球外生命体は見つからないという諦めの気持ちを自覚したのかなと、僕はそう捉えて勝手に悲しみにくれました。
海王星のめちゃくちゃ綺麗なビジュアルと深宇宙の静寂がふんだんに楽しめる後半で、ロイのバイタリティが覚醒する様とクリフォードの人間性が燃え尽きる様を描いているのがまた面白いです。
人類未踏の領域を舞台に描かれているのが人の性の話なわけですから。
■〆
個人評価:★★★★☆
確実に好みが分かれると思います。
予告で受ける印象とは全く違う内容の映画です。
ハードSF系の作品って哲学的な要素が強く含まれる物がかなり多いと思うんですが、その中でも『アド・アストラ』は、ハードよりハードな、ベリーハードなSF映画って印象です。
解釈する楽しさで、僕の中の評価にかなりの補正がかかってる感があります。
ではまた。