悪魔のいけにえ(1974年/アメリカ) ネタバレあり感想 高レベル低予算映画。若者がただ殺人鬼から逃げるだけの映画なのになんでこんなに面白いのか。
人畜有害な畜生レザーフェイスが初登場する映画。
公開40周年記念版というリマスター版で視聴しました。
といってもオリジナル版(?)はだいぶ昔、10年くらい前に一度観たきりで当時は映画にそこまで興味も無かったので、実質初見みたいな感覚です。
『悪魔のいけにえ』
(The Texas Chain Saw Massacre)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
五人の若者が奇妙な事件の頻発するテキサス州で狂人と遭遇。
■感想
テキサス州にやってきた五人の若者。
車内ラジオでテキサスで起きた猟奇的かつ怪奇的である様々な事件が矢継ぎ早に流れ、雑誌の占いには不吉な内容が記載され、これから五人の若者に訪れる不運を予感させる演出が続きます。
途中拾ったヒッチハイカーは尋常では無いテンションで若者たちに絡み、自らの手をナイフで掻っ切り、写真を撮って金をせがみ、それが無理なら写真を車内で燃やし、車内から追い出された際には車体に血文字を残そうとするも失敗。
異常者としか言えないこの男の序盤での登場が、この映画の纏う空気感によりヤバさを付帯させる感じ。
そしてこの男が低予算映画特有の空気感を作る役割だけのキャラクターでは終わらない事が、この映画が他の低予算ホラーとは一線を画している理由のひとつに繋がっていると思います。
立ち寄ったガソリンスタンドにはガソリンは無く、経営者であろう男は五人にBBQを勧めます。そしてこのガソスタの男もまた、それだけでは終わらない点がとても良いです。
若者たちはスタンドを去り、廃屋同然の一軒家に到着。若者たちの一人の祖父母の家だったかそんな感じですがそんな事はどうでもいいです。
中心舞台になりそうな雰囲気がとてつもないのに、この後廃屋はほぼ登場しません。
この廃屋が不穏な空気を演出する為の1スポットだけに終始する点は、前述のヒッチハイカーが本来担いそうな役割を代理している気がします。
前半では、とにかく静かにゆっくりと雰囲気を作り上げる事に注力していると思います。
ヒッチハイカーの存在でジャブ打ってくる程度に留め、何かが起こる事を確信させつつも何も起きない、そういう焦らしに徹している感じです。
すごく丁寧な構成の映画だと思います。
そしてガソリンを分けてもらおうと若者二人の男女ペアがフラリと立ち寄った民家の奥から、かの有名なレザーフェイスが唐突に登場して幕を開ける後半戦。
この民家がレザーフェイスや前述のヒッチハイカー、そしてコックと呼ばれるガソスタの男達の拠点だったりします。つまりこっちがメイン家屋。
男の子は頭部をハンマーの一撃で粉砕され、女の子は屠殺した家畜用のフックに生きながら吊るされ、男の子をチェーンソーで断裁するレザーフェイスの姿を目の当たりにして発狂。
直接描写はないものの女の子ももちろん殺されてしまいます。
この開幕感は凄いです。凄いというか凄まじいです。
前半で丁寧に作り上げた不穏な空気を一気に爆発させるようなレザーフェイスの登場のさせ方は、マジでかっこよさすら覚えてしまうレベル。
矢継ぎ早に若者二人を殺害した後、帰ってこない二人を心配して様子を見に来た半モブのメガネもハンマーで確殺するレザーフェイス。
やがて夜になり、三人も仲間が帰ってこない事を不安がる車椅子のフランクリンと妹のサリー。
スラッシャー映画黄金期の後に生まれた世代の人間は、この二人のどちらが生き残るのか逆に予想できなかったりします。
車椅子のフランクリンはハンデ持ち補正で生き残りそうだし、生き残った女の子はサリー以外居ないので、サリーが生き残るルートも当然予想できます(界隈ではファイナルガールと呼ぶらしい)。
二人が生き残るルートは当然考えません。笑止千万。
そんなちょっとした道中の予想の楽しみを、突然茂みからチェーンソー片手に現れたレザーフェイスが一瞬で打ち砕いていくのが最高です。
ヌッと出てきたレザーフェイスに一瞬で切り殺されるフランクリンに幸あれ。
真夜中で周りにろくな明かりも無く茂みの多いフィールドである為、息をひそめ隠れてしまえばなんとかなりそうなんですが、サリーは絶叫しながら位置情報を自ら発信しつつ全力で逃げる事を選択。
当然すぐ後ろからレザーフェイスが追ってくる事態に。
そしてサリーが逃げ込んだ民家はレザーフェイス達ソーヤー家の拠点。
屋内には人骨で作られた家具や人体のパーツが散乱し、二回にはミイラと化した女性とジジイが腰かけ、はく製のペットが添えられています。
この家の狂気度あらゆる部分がポイント高すぎてホント好き。
ソーヤーハウスから再度逃げ出しガソスタに駆け込むも、実は殺人鬼側の人間であるコックに捕獲されるサリー。
ソーヤーハウスに連れ戻されたサリーは手始めに指先を切られ、ほぼミイラの爺さんに指しゃぶされ気持ち悪さのあまり気絶。ジジイ生きてたのかよ定期。
そして目覚めると目の前ではソーヤー一家がディナーを楽しんでいました。
命乞いをするサリーを全力で煽るソーヤー一家。
かつて屠殺の名人だった爺さんに、サリーをハンマーで殺してもらおうと盛り上がる一同。
ジジイは当然のようにハンマーを握れず空振りを連発、その一瞬を狙い脱出に成功したサリー、既に夜は明けていました。
ソーヤー一家のあれはとても朝食のテンションとは思えないんですが。
この辺りの一連のソーヤーハウスのシーン、あらゆるところが狂った方向にハチャメチャしまくっていて本当に面白すぎます。
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- メディア: おもちゃ&ホビー
外に逃げたサリーを追うレザーフェイスとヒッチハイカーのコンビ。
ヒッチハイカーはついでと言わんばかりにトラックに敷かれて死亡、レザーフェイスもトラックの運ちゃんの投擲したスパナで負傷し転倒、うっかり右脚を自身の持つチェーンソーで傷つけてしまいます。
そしてサリーはトラックの運転手に保護されるのかと思いきや、通りがかった別の自動車に助けてもらい逃走成功。
レザーフェイスは朝焼けの中、チェーンソーを振り回し発狂し続けるのでした。
面白すぎ。
ソーヤーハウスからクライマックスの逃走シーンまでの勢いがとんでもないです。
矢継ぎ早に降りかかる常軌を逸した状況の数々をサリーはただ叫び逃げまどいながらこなしていくだけ、それだけの映画なのにここまで面白いって本当に凄い事だと思います。
レザーフェイスがソーヤー一家の中では特異な狂人では無く、むしろあの一家に於いては一番人間味がありそうな描かれ方をしている点に、僕は凄く魅力を感じます。
半モブのメガネを殺した後に一瞬だけ描かれる何かに怯えてそうな仕草をするシーンや、コックの脅しに身をすくめ、彼の言葉にただ従うシーン。
そして、縛り付けられたサリーに対し、純粋に興味を持ったようにそわそわとした仕草で触れるシーンなど、とにかくレザーフェイスはイノセントな雰囲気をところどころで醸し出していました。
レザーフェイスはソーヤー一家では末弟で、兄達が皆一様に狂っている上に家主であろう男はゾンビみたいなジジイな訳ですし、狂わざるを得ない環境が生んだ化け物という風にも思えます。
殺人に対する感覚も、コックが命令するからやっているような感じで、そもそも真っ当な倫理観を身に着けてはいないような印象です。
知能の問題があるとかそういう設定は一応あるそうですが、それ以前に人間社会に意図的に馴染ませず殺人に特化するように育てられた感じなんじゃないですかね。
だからこそ瞬殺という手口に特化しているのかもしれません。
魅力的すぎる殺人鬼レザーフェイス。案の定、彼を掘り下げた続編がありました。
観るか迷うんだよなぁこれ系の続編。
■〆
個人評価:★★★★☆
じわじわと不穏な空気感を演出していた前半と、一気に狂気とスリルで駆け抜ける後半の演出の違いが効きまくる、とてつもない面白さのスラッシャー映画だと思います。
殺人鬼一家は各々狂人であるものの、一番目立つというか中心的に描かれる殺人鬼のレザーフェイスが実は一番あの中ではマトモ寄りっぽい点も独特の魅力が感じられて好きです。
構成、演出、ストーリー、キャラクターと、総じてレベルが高い低予算映画という珍しすぎる一本です。
昔観た時は全然魅力を感じなかったのが不思議。おすすめです。
続編は全く手を付けていないので、近いうちに観る予定。
この映画は下記の配信サービスで視聴できます。
ではまた。