ヴァレリアン 千の惑星の救世主(2017年/フランス) ネタバレあり感想 万能タイプのスペースオペラって印象。
1960年代にフランスで生まれた人気漫画作品が原作のスペースオペラ。
(Valérian et la Cité des mille planètes)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
拡張しすぎて質量限界を迎えた宇宙ステーションが地球圏から遠ざかって数百年後、国際どころか宇宙中の種族の住む一大都市となったアルファ宇宙ステーション。
その内部で異常が発生し、連邦捜査官のヴァレリアンが調査を始める。
■感想
原作バンドデシネ(漫画の事)は、スターウォーズにも大きな影響を与えたのではないか?と言われているそうです。
実際かなりの点が類似しているらしいんですが、それを逆手に取ったかのようにこの映画ではスターウォーズを意識したとしか思えないようなシーンが多々見受けられて面白いです。
パロディ元がパロディ先をパロディする相関的逆転現象が発生しています。
異次元に位置する砂漠地帯に存在する巨大市場の闇商人がジャバザハット感全開だったり、敵の攻撃から逃れた末にゴミ溜めにダイブする主人公達だったり、宇宙戦同士の戦闘シーンの演出の仕方だったり、他にもたくさんチラつかせていました。
今回の実写化に当たって、おそらく原作に近く描かれているであろう主人公ヴァレリアンとヒロインのローレリ―ヌの二人は、ハンソロとレイアのベースになったんじゃないかとしか思えない性格してて、上記のSWの元ネタのひとつになった説を体感する事ができます。
彼らが乗る宇宙船もミレニアムファルコンっぽいし。
アルファ宇宙ステーションが形成されていく過程を描いたオープニング、掴み方がほぼ完ぺきな気がします。
SF映画において、
①異星人は敵対すべき侵略者として描かれる
②既に人類も多種多様な異星人の内の一つとして描かれる
このどちらかのパターンが多いと思います。
特に①のパターンが圧倒的に多い印象です。
①の例↑
この映画の場合、オープニングで異星人と友好関係を結ぶ事で、宇宙レベルで人類文明がどんどん発展していく様を描いていて、クソポジティブでビックリしました。
『未知との遭遇』や『コンタクト』、『メッセージ』等の映画のクライマックス後におそらく訪れたであろう人類の未来を観ているような感覚があってかなり楽しめました。
最初は地球人同士が、国境や勢力・思想の壁を越えて握手を交わしていき、時が進むにつれ握手する相手は多種多様な異星人たちに変わり、そうして宇宙ステーションは極大化していく、という流れが描かれます。すごく平和。
握手っていうのがすごく良いと思います。
相手の異星人がその意味を初見で理解していたかはともかく、それはお互い対等に接するって意志の表れだと思いますし。
この流れをしっかり描いてから②のパターンになる映画ってかなり珍しい気がします。
冒頭で描かれた未開の惑星ミュール崩壊の原因も、アルファ宇宙ステーション内に危険地帯が存在する理由も、全ては連邦司令官のおっさんが黒幕で、このおっさんがしっかり小物やっていて安心感があります。
このおっさんのせいで母星を失って難民となってしまったパール星人の皆さんがストーリー全体の中核を担っているのと同時に、現実世界での難民問題という要素も絡めているように思います。
多種多様な異星人が住まうグローバル極まったアルファ宇宙ステーション内ですら、ひっそりと隠れて生きているパール星人。
なんなら存在を抹消されているので現実の難民よりハードモードです。
古典SF作品の実写映画化ではあるんですが、そこにはしっかりと今の時代らしい要素を組み込んでいます。
王道冒険活劇であり、どの年齢層の人でも楽しめる内容とストーリーだと思いますが、一方でそこに退屈さを感じる人もいると思います。
実際、バブルという変身能力を持つ異星人(リアーナのキレッキレなダンスが観れます)とヴァレリアンとの出会いのシーンにやたら尺が割かれていたりします。
その割にバブルちゃんは終盤に入る前に死亡してしまうのが逆に驚きました。
また、黒幕の被害者であるパール人達とヴァレリアンたちの会話と真実発覚パートも「そこまでしっかりセリフで補足する必要あるんか」ってくらいガッツリ解説かましてきたりします。
ローレリ―ヌが蛮族風異星人に捕まり、それをヴァレリアンが救いに向かうパートも、楽しいパートではあるんですがよくよく考えたら無くても良い気がしますし。
そういうテンポ感的な部分では、ちょっとクドさとか感じる部分がありました。
背景描写、メカニカルデザイン、未来感の演出、僕がSFを観る時に一番楽しみにしているのがこれらの要素です。
ここに関しては完璧と言わざるを得ないレベルのものが堪能できました。
劇中に、無能小物司令官のおっさんのお付きとしてK-トロンというドロイドが登場するんですが、このドロイドの無機質で感情を一切感じさせないターミネーター的殺戮専用兵器感が堪らないです。
また、アルファ宇宙ステーションが形成される段階から描いてくれるので、劇中時間の現在の宇宙ステーションのヤバ過ぎるサイズ感とゴチャゴチャ感も最高にときめきました。
しかも、中盤辺りまでは殆ど未来的なオブジェクト一色で描き続けるのに、終盤でアポロアポロ宇宙船や、人類同士でドッキングやって拡張してた頃のオブジェクトの名残を感じさせるオブジェクトを見せてきたりと、何かと見せ方が上手くてはしゃげるシーンが多かったです。
引用元:『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』予告編 https://www.youtube.com/watch?v=t9oO6gOjG2A
序盤でヴァレリアンたちが盗まれたコンバータ(と呼ばれている生き物)を取り戻しに行くシーンが、個人的にはこの映画で一番好きなシーンです。
ひとつの惑星に2つの次元の世界が重なり、一方では単なる砂漠地帯なのですがもう一方では巨大な市場が形成されているという、SF全開飛ばしまくりなシチュエーションとロケーション。
専用のメガネと補助ツールを用いるだけで他方の世界を観測できて干渉も可能という手軽さが遠い未来の世界らしさに拍車をかけてきます。
そして、ヴァレリアンとローレリ―ヌちゃんはこの手軽さを利用して、2つの世界をうまく行き来しながら危機回避しつつミッションをこなしていきます。
かなりの王道感に溢れ全体的に無難な感じの本作でこのシーンだけ異様に尖っていて凄く印象に残りました。
■〆
個人評価:★★★☆☆
というかそもそもスペースオペラのデファクトスタンダードが形成されるキッカケになった作品のひとつが原作なんだから王道なのは当然なのかもしれませんね。
だからこその安心感があります。安定して面白い感じ。
ただ、古臭いかと言えばそういうわけでもありません。
母星を失い、難民となってしまったパール星人達を根幹に置いたストーリー構成とテーマは現代的な問題提起を感じますし、何よりビジュアル面のパワーが凄い映画だと思いました。
この映画は以下の配信サービスで視聴できます。
ではまた。