ゲット・アウト(2017年/アメリカ) ネタバレあり感想 構造的な面白さが群を抜いてる、色々とすごい映画。
ホラーなのか?
『ゲット・アウト』
(GET OUT)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
白人の彼女をゲットした黒人男性が、彼女の実家に挨拶に行った結果酷い事になる。
■感想
黒人を捕らえて、洗脳した上で彼らの意識に自分の意識を移し込んで乗っ取ろうとする秘密結社に狙われてしまった男の顛末を描いた映画。
ホラーなのにコメディ!とよく言われていて、でもそれって普通じゃないか?と『シャイニング』 でホラーに入門した僕は思ってしまっていたんですが、観終ったあとは確かにホラーなのにコメディだ!!って思う点があって納得しました。
偶然なのかリスペクトの表れなのか分かりませんが、この映画の最後に出てくるタイトルロゴもちょっとシャイニングっぽいです。
大きく全体的に考えた場合だと、全編に渡って一人の黒人男性を釣る為のドッキリをやっているような、ちょっとしたコント感に根差しているような違和感を、ホラー演出でカスタムしているような感覚です。
モロに笑いを取りに行ったような描写は見受けられない(文化的な違いの問題で僕が気づいてないだけかもしれませんが)ですし、監督がコメディアンという出自を持っているので、映画の枠組みと構成の部分にコメディ的なエッセンスを加えているんじゃないかと思いました。
一方で不気味さや怖さの演出も抜かりないと思います。
意識を乗っ取られた黒人たちもカメラのフラッシュで一瞬自我を取り戻す(というより身体を取り戻す)事があり、その瞬間の狂気じみた表情が、怖いけどちょっと笑えたりします。
個人的に一番意味不明で怖いと笑いが融合した感覚を味わえたのが、
管理人の黒人男性(中身は実はローズの祖父)が、真夜中に全速力でクリスの元にダッシュしてきて、目の前でターンしてそのままどこかへ走り去るシーン。
映画観終った後で、全ての謎が解けた今でもこのシーンだけは意味不明過ぎて脳裏に焼き付きました。
絵面が面白すぎるんですよこのシーン。めっちゃ怖いのに笑ってしまう。
走っていた本人曰くトレーニングとの事ですが、たぶん、若い黒人の身体を手に入れてはしゃいでたんですかね、ローズのおじいちゃん。
人種という要素をとても強く感じさせる映画でもあります。
かなり捻くれた描き方で、間接的に差別というものを意識させてくるような作りになっていました。
そもそも主人公のクリスが、白人であるローズと付き合っている事をローズの両親に知られる事を不安がっていたり、事故を起こした際に、ローズが運転していたのに何故かクリスも身分証の提示を求められたりと、根底に人種に基づいた差別的な風潮を意識させるシーンは多かったです。
差別というものを意識させて、その意識を上手く利用してくるような映画だと思いました。
主人公のクリスが劇中、他の黒人の登場人物に語り掛ける黒人らしい挨拶の仕方に相手が全く対応してくれなかったり、服装や話し方まで黒人らしくない点をクリスは不気味に感じていました。
クリスが話しかけた黒人はいずれも中身は白人に乗っ取られているので当然なのですが、そういう「黒人らしい行動や言動」も(文化的な背景に基づく個性だと僕は思うんですが)裏を返せば描写自体に差別的な意図を組み込んで、そこからクリスが違和感を感じるような雰囲気に繋がったりしているわけで、中々キレてる演出だと思います。
他にも、彼女であるローズの実家でパーティ(結社の会合)が行われた際、白人たちが皆クリスに黒人の素晴らしさを語るようなシーンがあります。
ローズの父親も、自分はオバマ支持者だから差別主義者では無い、というスタンスをとっていたり。
それもまた「自分は差別主義者では無い」という立場を印象付ける為の、一種の忖度に見えますが、実際には彼らは本当に「黒人の身体が欲しい」人達な訳で、そういうミスリードの仕込み方が意地悪で面白い映画だと思います。
秘密結社が黒人の身体を求める理由は、遺伝的な身体能力の高さを欲していたからでした。
人種差別を描写に組み込んだ映画で、白人が黒人にあこがれを抱いているという状況的なシュールさは中々のものです。
一見すると人種差別に敏感な人々ばかりが出てきているように見える作りになっていて、実際には別の意味で人種の差に敏感な人達が黒幕だったという構造。
でもこれは結局突き詰めれば黒人の所有化という事でもあって、やっぱりそこには黒人を奴隷にしていた歴史的背景に基づく差別意識みたいなのが感じ取れたりもするわけです。
そういう上手く作り込まれた構造に前述のコント感が絡んできて、この組み合わせが面白さに直結している映画でした。
ローズの母親の用いる催眠術の切り札感とか。
特に後半では当たり前のように凄く自然に馴染んでましたけど、催眠術ですからね。
■〆
個人評価:★★★★☆
張り巡らされた謎と伏線の回収の流れ、隠された真意の意外性、そしてミスリードの巧妙さなど構造的な面白さが魅力的でした。
人種差別が根底にありながら、それが表面化するようなタイプの映画では無い点も個性的でした。
この映画は以下の配信サービスで視聴できます。
ではまた。