ARQ:時の牢獄(2016年/アメリカ・カナダ合作) ネタバレあり感想 ループの中で起こるイベントの変化を中心にしている映画だけど無駄な設定と描写が多い。
よく分からないけど、なんでか世界が繰り返しているんだからなんとかしないと、みたいな。
『ARQ:時の牢獄』
(ARQ)
予告:
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
永久機関がタイムループ機能を獲得してしまい、巻き込まれた人々が繰り返しの中で問題解決に勤しむ。
■感想
何度も同じ瞬間を繰り返す中で、前回のループの記憶を持つ主人公が新たな事実や展開に直面していく系の映画。
当所は主人公のみが繰り返している事に気づいていますが、次第にヒロインの女性やサブキャラクター達、そして敵となる傭兵もループに気づいていき、繰り返している事を利用してお互いに探りを入れたり、この後起こる出来事を利用して裏を掻いたりする展開がありました。
ここはかなり個性的な部分だと思います、うまくループ物というフォーマットを利用して遊んでいる感じで楽しいです。
その世界観の背景は、近未来でエネルギー資源が枯渇し世界中が荒廃し人類が危機に瀕する中、圧倒的な力を持つ巨大企業トーラスの圧政に、おそらくレジスタンス組織である"ブロック"が抵抗活動を行っている、というもの。
ARQとはトーラスの元社員である主人公が開発した永久機関です。これが何故かタイムループ機能を獲得していました。
低予算なのか、基本的には室内でのみストーリーが進行していきます。
一応戦闘用ドローンや荒廃した都市なんかも一瞬だけ登場したりするんですが、あくまで終末世界である事を印象付ける程度。
「あれ結局なんの意味があったの?」という描写が平均的なそれを遥かに上回って大量に登場し困惑しました。
永久機関として開発されたARQがタイムループを引き起こしている理由は不明。
ARQの中央に設置されているジャイロのような回転する筒の速さと、ループした世界の時間の進行速度が同期していて回転速度が速いほど実時間の進行も早くなる、という設定を出した理由が不明。
ループには一定の範囲があり、ARQを中心に円を描くような範囲でループが巻き起こる?らしいですが、範囲外と範囲内に生じるはずの時差や空間的な歪みがどうなるかも不明。というかこの範囲内ループ設定を登場させた理由も不明。
外の世界は汚染されていて、マスクを装着しないと恐らく生存できないらしいんですが、そもそもなぜそのレベルまで世界が荒廃しているのか(トーラスとブロックの戦いによるものなのか他に原因があるのか)という、背景世界設定そのものを強くイメージさせてくるのにその原因が不明。普通に外で呼吸してるし。
絶滅したはずのリンゴがなぜ主人公宅にはあるのかも不明。
といった感じで、とにかくARQに関する機能や設定が描写としてしっかり登場するのに、それらが物語と絡んでこなかったり存在理由が不明な設定が無駄に力の入った作り込みと共に登場したりと、余分な描写と詰めの甘さがかなり目立つと思いました。
伏線として絡んでくるものもありません。
物語の中心はARQそのものや荒廃した世界がどうこうでは無く、ループそのものの中で巻き起こる変化や発覚する衝撃展開にある映画だと個人的には思うので、極端な話これらのSFらしい下地を見せようと登場させた諸々の設定が、むしろ映画の足を引っ張ってしまっている印象を受けました。
直接見せないで匂わす程度に登場させておくだけで十分だったと思うんですよね、上に挙げた諸々の設定とかって。
むしろそれらをしっかりガッツリ登場させてきた為、この後の物語にどう絡んでくるのかとか変に考察脳を働かせながら観ちゃったんですが、最終的に映画自体の本筋には絡んでこなかったので肩透かし感がとんでもなかったです。
雰囲気作りと作り込みの方向性がブレブレな感じがしました。
そもそも範囲内ループという設定であれば、終盤の驚き要素として用意されていたシークエンスを繰り返しているという設定(9回のタイムループ中は記憶が維持されるが、それを1つのシークエンスとして以降何度もリセットされる)で、実はこれを主人公達は何千回も繰り返していたという事ですが、
円の範囲内でのみのループなら、傭兵ソニーが外部に応援を呼ぶ際の通信だったりクライマックスのZMPと呼称される戦闘ドローンの登場といったループ範囲外に干渉する出来事が、自然に範囲内と同期しているように繰り返される理由が全く分からなくなります。
街が荒廃していた理由も、最初は範囲内ループと範囲外で進む時の流れの極端な差が原因かと思ったんですが、それだと通信の矛盾などが発生しちゃうので、どうしても辻褄が合いません。
根幹の部分に結果として矛盾と謎と意味不明さを抱えてしまっているとはいえ、かなりスリリングな展開がループ毎に発生しますし、知っているはずの出来事が小さな変化や新たな事実で全く別の行動を選択しなければならなくなるといったループ物らしい面白さは堪能できる映画だと思います。
信じていた恋人ハンナが実はレジスタンスだったり、そのレジスタンスにトーラスの傭兵ソニーが紛れ込んでいたり、それらが発覚して先手を打とうと思った矢先にハンナやソニーもループの記憶を持ち始めて上手くいかなくなったりと、ループ物のフォーマットが楽しめる人ほど惹かれる展開が多いように感じました。
矛盾点は多いですが肝心のループ毎の出来事そのものは凄く面白い映画です。
■〆
個人評価:★★★☆☆
ループ物であり、SFらしい複雑さに果敢に挑んでいるものの、それらの要素がむしろマイナスに働いている部分もあります。
ただこの映画の場合、繰り返しの中で少しずつ訪れる変化や明かされる真実に比重を置いた内容になっているので、SF的な設定や要素はあくまでその味付けの一環であると捉えれば、中々楽しめる映画でした。
オンリーワンの面白さというよりも、ループというジャンルや形式が好きな人が追加注文的に楽しむような、そういうタイプの作品だと思います。
この映画はネットフリックス独占配信作品です。
ではまた。