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フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ(2018年/イギリス・アメリカ) ネタバレあり感想 お得感満載のSFアンソロジードラマ。

 

数々の名作SFを世に残した作家フィリップ・K・ディック

彼の遺した短編をアンソロジー形式で映像化してしまおう!という最高すぎるドラマシリーズ。

 

フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』

(Philip.K.Dicks ELECTRIC DREAMS)

フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ 予告編 (字幕版)

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フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ 予告編 (字幕版)

以下、ドラマシリーズ全エピソードのネタバレを含む感想記事です。

 

 

概要

フィリップKディックの短編集に収録された物語から選定された10作品を各エピソードを50分程度の単発作品として映像化したアンソロジー形式のドラマ。

各話毎に異なるスタッフによって製作されています。

 

原作となる短編集をそのまま映像化している訳では無く、現代の社会情勢や科学技術などをフィードバックするような形でリメイクしている点が特徴です。

 その為、ほとんど原作からかけ離れた設定やストーリーになっているものも多いのですが、それもまたアンソロジーらしさだと思うので、現代風リメイクの一環として楽しめると思います。

 

各エピソード毎に異なるタイプのSF作品が選択されていて、このドラマシリーズを観るだけでも相当SF脳が鍛えられると思うので、お得感がとてもあります。

一方で、人の本質や可能性を考えさせられるような、哲学めいた要素がどのエピソードにも共通している様に思います。

 いままで認識していた世界や概念が覆されていく展開と、その先にある結末に驚かされるエピソードばかりで、非常に楽しめます。

 

感想

 

各エピソードの感想毎に小分けしました。

 

 

EP1真生活(REAL LIFE)

仮想現実モノ。

仮想現実で羽を伸ばそうとしたけど、あっちとこっちの世界を行き来している内にどっちの世界が現実なのか分からなくなってしまうという内容。

 『人間狩り』という短編集に収録された”展示品”という作品が原作になっているようです。

人間狩り

人間狩り

 

 

一方の世界は都会で最愛の女性ケイティと共に豊かな生活を送るレズビアンの女性警官サラ、一方の世界では妻ケイティを殺され復讐に燃えるゲーム会社経営者ジョージ。

二つの世界を交互に繰り返すうちに、どちらが現実なのか分からなくなるという展開の面白さはもちろん、視聴しながら色んな要素を拾ってどちらが現実世界の話なのか予想する楽しみが存分に味わえるエピソードでした。

 

最終的にジョージである自分の世界が現実だと認識し厳しい世界と向き合った矢先、その世界がやっぱり仮想現実であり、サラの意識は二度と戻らなかったというオチの衝撃が凄まじいです。

ポジティブなオチと見せかけて突き落としてくる感じ。

 

夢か現実か分からなくなるというのは、どことなくトータル・リコールっぽさがあるエピソードですが、あちらもフィリップKディックの追憶売りますという短編が原作です。才能が凄い。

トータル・リコール (字幕版)

トータル・リコール (字幕版)

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EP2自動工場(AUTOFAC)

ディストピア×人工知能×サイバーパンクの欲張りセット。

 同名タイトルの短編を映像化。

 

アメリカとロシアの核戦争により人類は滅亡寸前でサバイバル、しかし廃墟の中で機能し続ける自動工場はただひたすらに製品を作り続け、ドローンが無意味に思える配送を繰り返している、というディストピアと暴走マシーンのダブルパンチで最高に面白いです。

これに加え、実は生き残った人類など居なく主人公達を含む全ての人間は人工知能を搭載したドロイドだったという追い打ちストレートまで決めてきますし、その上で主人公はそれを知りつつも最後は人間として生きていく事を示すラストで物語を完全に落としきるので、とにかくずっと面白い展開が続く感じでした。

SF作品を観ている感を凄まじく感じられて凄く好きです。

完全に自動化された工場が、自らの存在意義や存在理由の為に、自らを人と思い込むドロイドを生産することで消費者を生み出していた、という設定はとても不気味で且つ新鮮に思えます。

こうして完全自給自足で満足していた自動工場ですが、最後には真の人間性を爆発させた主人公によって壊滅させられる皮肉な展開に。

 

顧客対応用ドロイドのアリスがモダンなスタイルのアンドロイド風のデザインでとても良いのに対して、防衛用ドロイドが特撮ヒーローモノに出てくる怪人みたいな雰囲気醸しだしているしいつの間にか破壊されてるしで、絶妙な趣。

 

 

 

 

 

EP3人間らしさ(HUMAN IS)

 超未来世界を舞台にした逆転裁判

瀕死の地球を救うため、レクサー人なる知的生命体の住まう星へ水を略奪しに行った軍属のサイラスと、サイラスが生還後、あからさまに人が変わってしまっている事に困惑しつつもそれを受け入れようとする主役のヴァラ、この夫婦の物語。

この話の結末、結局のところ実際にサイラスはレクサー人に寄生されて文字通り別人になっているので、それを知り理解した上でヴェラは寄生後サイラスを受け入れて愛するという結末なのですが、中々尖ってません?このオチ。

 

最低だった夫が異星人に身体のっとられた結果、めちゃめちゃ最高なハズバンドにクラスチェンジしてホームカミングでハッピーエンド、にはならないような気がするんですよね。

タイトルからして「根本的に人間性ってなんなん?」って部分を、思いやりや愛情などの人間らしさをまるで感じさせないサイラスと、そのサイラスに寄生した事で誕生した聖人みたいなサイラスで皮肉まじりに対比しているのはわかるんですが、入れ替わった相手が完璧な夫だったから愛せる!みたいなヴェラのエゴがどうしても滲んでるように思えてしまって違和感ありました。

のび太ですら、綺麗なジャイアンより普通のジャイアンを最終的に望んでたのに。

 

めっちゃ凶悪だとされていたレクサー人が、人間より人間らしさを体現している知的生命体でしたっていうオチがそもそも尖っているので結果オーライではあると思いますけどね。バッチバチな皮肉。

 

同名タイトルの原作は『自動工場』と同じ短編集に収録されているみたいです。

 

 

 

 

EP4クレイジーダイヤモンド(CRAZY DIAMOND) 

 キメラ人間、生き延びるの巻。

まだ人間じゃない』に収録された"CM地獄"という短編が原作。

 

キメラ(合成獣)が当たり前のように存在する未来の世界で、キメラに意識あるいは魂を与える為のCQと呼ばれる物質を製造販売する会社に勤める男エドが主役。

エドの前に姿を現した活動限界間近の女性キメラのジルが、寿命を延ばす為にQCを会社から盗む手伝いをしてほしいと頼み、エドがこれに協力する、という感じの内容でした。

これだけなら割とライトなSF世界観で描かれるクライムサスペンスっぽいんですが、予知や暗示を強く印象付ける夢に関する描写と、そもそも回想と予知夢のような描写が入り混じる事によるストーリーラインの混乱、終盤でジルとサリーがいきなり船上に現れるシーンの幻覚か現実か把握し辛い演出、直ぐ腐る青果や野菜という描写などおそらく物語の根幹やテーマに繋がるであろう描写の数々の難解さが極まっているように思います。

 

それなので僕は、いつか大海の果てにある楽園を目指したいという夢を持ちつつも平凡な男でしかなかったエドが、ジルの存在によって少しだけ非凡な世界を経験し、結局最後は非凡さを通せずジルや妻のサリーに失望される物語、という方向で解釈しました。

あるいは、エド自身がCQの製造で重要なポストに就いているらしい点を踏まえれば、自分達の都合で生み出した生命に対する責任と向き合う物語、ということなのかもしれないです。

エドとサリー夫妻が子供を授かれなかった、という設定も絡んできそうですし。

 

原作である"CM地獄"のあらすじを確認して観たんですが、全く別の話で笑いました。

本編中で名前だけ軽く登場したファスラッドというロボットが原作では鍵を握っている存在だったり、そのファスラッドが自身を売り込みに主人公宅にやってくる内容だったり、要素要素は本作クレイジーダイヤモンドでも観られる部分があるので、原作サンプリングした上でのオリジナルストーリーって印象です。

 

 

 

 

EP5フードメーカー(THE HOOD MAKER)

レトロフューチャーな世界観で描かれる、ハードボイルド風の男とサイキックの女によるバディもの。

レトロフューチャーと言っても、作中設定では技術的な衰退によって、文明レベルが退行しているという事みたいです。

トータル・リコール ディック短篇傑作選に収録されている同名タイトルの短編が原作。

ちなみにFoodでは無くHoodです。パーカーとかに付いてるあれ。 

 

"ティ―プ"と呼ばれるテレパス能力を持つサイキックと、彼らに思考を勝手に読まれる事に反対する勢力との対立構造をベースに、ティ―プが介入できなくなる特殊な被り物を制作しているフードメーカーを刑事のロスとティ―プの一人であるオナーのコンビが追うという内容。

単純な思考の読み取りだけでは無く、ある種の強制同調に近い思考ジャックや、ティ―プ同士の思考ネットワークによる情報収集能力など、テレパス能力の使い方や見せ方が上手く、超能力バトルもののような面白さがありました。

 

 

共に過ごす中でロスとオナーは恋仲になるんですが、ロスが実はティ―プの思考介入を阻止する特殊な才能を持っていて、その力によってオナーを騙して捜査に利用していたことが発覚、これが原因で二人の仲は拗れてしまいます。

今までは他者の思考を読み取り他者の真意を常に知る事が出来たオナーだからこそ、ロスに嘘をつかれたという事実が、よりショックだったんでしょうね。

 

最後のシーン、燃え広がるフード製作所から脱出する為の最後の退路を塞ぐオナーと、扉を開けるように必死に懇願するロス。

あの時点で実際にロスがオナーを愛していたのか、やはりあくまで彼女を利用する為に近づいただけなのかは明確に描写されていません。

ただ本当に愛していたからこそ、自分の真意をオナーに読み取らせる事を決めたとも捉えられます。

 

一応フードメーカーを追う物語のオチとして、オナーからすればロスはフードメーカーとなんら変わらない自分達を拒絶する存在に思えてしまうという、しっかりしたオチは付いてるわけですが、人の心が読めてしまう少女と、絶対に心を読み取らせない男の恋物語という側面は絶対にあるので、そのオチとして見てみると切なくて好きです。

 

 

 

 

 

EP6安全第一(SAFE AND SOUND)

青春学園ドラマ風の洗脳サスペンス。

顔のない博物館』に収録されている"フォスター、お前はもう死んでるぞ"が原作。

 

管理社会を推進する東部とそれに反対する西部という東西分断された未来のアメリカを舞台に、東部勢力のプロパガンダによって一人の女子生徒が洗脳される様を描いた作品でした。

当所は、田舎から親の都合で無理やり都会に移住し都会のハイテク高校に通う事になった主人公のフォスターが、同級生たちからの嫌がらせに耐えて見返す系の、日本的には花より男子に近いフォーマットの学園ドラマの雰囲気が漂っていました。

もちろんその路線のまま行ってくれるわけも無く、序盤からちょくちょくキーワードとして登場していたプロパガンダと洗脳の物語へとシフトしていき、最後にはフォスターが完全に東部社会に洗脳され切り、実の母が無実の罪で逮捕されるというなんとも後味の悪い一作。

 

学校という閉鎖空間に加えて皆が持っている物を持っていないという疎外感、そこに付けこんだ体制側の悪意が全て噛み合っていて面白いです。

敵を作り出す事で自分達の政策や活動を正当化する事への批判を分かりやすく描いていると思います。

 

ただ、最後にフォスターを洗脳する為に実際に何が裏で起きていたのかをネタバラシ的に描写していくのは逆にもったいない気がしました。

もちろん物語の真意を伝える為に組み込まれたパートだとは思うんですが、それが無くても中盤くらいで既にフォスターが洗脳されていく様を描いている、という事に気づけるはずですし。

何せオペレーターのイーサンが怪しすぎ。

 

 

 

 

EP7父さんに似たもの(THE FATHER THING)

現代を舞台に描かれるSFジュブナイル入れ替わりホラー。

人間以前』に収録された"父さんもどき"が原作。

人間以前 (ディック短篇傑作選)

人間以前 (ディック短篇傑作選)

 

 

宇宙からやってきた謎の生命体に寄生され、肉体を乗っ取られていく人々。

主人公チャーリーは父が外見は同じでも中身は別物である事に気づき、友人達と協力しながらこの宇宙生命体と対峙する、というかなりライトな作風でした。

少年達がメインキャラである点、それゆえ大人達は彼らの言葉に耳を傾けようとしない点、頼ろうとした大人の中には既に入れ替わり済の者達も居て窮地に陥ってしまう展開など、子供達が主体だからこそ出てくる問題点やムズ痒さが魅力的。

IT』と『ゼイリブ』が持っていた面白いパーツが融合しているような印象で、個人的にはとても楽しめました。

更にホーム・アローン的な攻撃トラップの登場であったり、ところどころで自然に織り交ぜられるコミカルな会話劇など、いまのところ最もエンターテイメント的な要素を強く感じる作品でした。

 

 

 

 

 

EP8ありえざる星(IMPOSSIBLE PLANET)

コズミックホラーの対義語があるとするなら、この作品がまさにそれ。

個人的に一番お気に入りのエピソードがこれでした。

背景設定こそゴリゴリの未来SF作品ですが、SF要素が前提の物語では無く、ある二人の登場人物が辿る人生と結末をSF要素を介在させて描いたような内容で、この点が他の9エピソードと少し血色が違うのが特徴かと思います。

地図にない町 に収録された同名タイトルの短編が原作。

 

今や消滅したとされる地球に行きたいという、300歳オーバーのスーパーおばあちゃんイルマ。

旅行会社に勤めるノートンとアンドリュースは当初は真面目に取り合おうとしません。

しかしイルマが大金を提示してきたことで、二人は太陽系とよく似た星系を探し出し、その第三惑星を地球と誤認させる事で納得させる偽装ツアーを敢行する、という内容。

ともすればコミカルな展開なども発生しそうなこの内容で、しかし実態はイルマとノートンの二人の間にある不思議な繋がりや運命を感じさせるような展開が続く、超常的でロマンチックな雰囲気の物語となっていて驚きました。

 

イルマの祖父の若かりし姿とノートンの姿が瓜二つ、ノートンとイルマが行ったことも無い地球でのとある一日の景色を夢に見る等、説明のつかない偶然や出来事が描かれます。

それは例えばウラシマ効果で二人の年齢差が広がったり、何かされて記憶が混濁した状態の、かつて分かたれた恋人同士だった、というような宇宙開拓時代ならではの考察を楽しませてくれるんですが、クライマックスの展開がそれらを一蹴します。

 

ノートン達が地球の代わりとしたその星は、有毒ガスと岩石のみが在る不毛な惑星でした。

しかしイルマはこの星を地球だと確信ノートン達に騙されただけでは無く、それ以上の何かを感じているような描写があります)し、ノートンも彼女のフィーリングを信じて二人は惑星に降り立ちます。

やがて辺りから鳥のさえずりや川の流れる音が聞こえてきます。

船外用スーツの酸素が切れた後、ヘルメットを脱いだイルマは若返っていました。

それを見たノートンもヘルメットをとると、辺りには綺麗な水辺が広がっていました。

超常現象としか言えないこの展開は、二人の酸素が切れたタイミングと重なって起こっているので、一見それらは二人が見た幻覚だったという悲しいオチにも思えますが、多分そうじゃないはずです。

あくまで解釈はご自由にみたいなスタンスではあるようですが、僕はそんな無粋なオチには思えませんでした。

 

この作品は、説明のつかない奇跡とそこにロマンスを全力投入したラブストーリーなんだと思います。

 作中で「人はすべて理解してしまった」と少し寂しそうに発したノートンをイルマが否定するシーンがあります。

人類が宇宙の隅々まで開拓し尽くし、科学技術も到達点を迎えあらゆる出来事や事象を説明できてしまう世界観をベースにしているからこそ、奇跡のような出来事が事実と思える、そういう不思議な説得力と魅力を持ち合わせた作品でした。

 

個人的には、二人が降り立ったあの惑星も、実際に地球だったんじゃないかと思っています。

作中で誰もが地球は今は存在しないと断言しつつ、実際に存在していない事を自分の目で確かめている訳では無く伝聞や知識としてそれを言っているだけだからです。

 

ちなみに調べてみたら原作では、地球の代わりとされた惑星が実際に地球そのものだった可能性を示唆する描写があるみたいです。

今ではよくあるフォーマットかもしれませんが、ロマンがあって好きです。

 

 

 

 

EP9地図に無い町(THE COMMUTER)

パラレルワールドのお話。

短編集『地図にない町 』より、同名タイトルの作品を原作としています。

 

内容的には多次元世界というSF的解釈では無く、オカルティックな民間伝承、都市伝説に近いものという印象を受けます。

自分達の居る世界と少し違う世界に迷い込んでしまう、というフォーマットの都市伝説や物語は数多く存在します。日本でも"きさらぎ駅"や"地下の丸穴"など、2ちゃんねる発祥のこれらの都市伝説が有名になった時期がありました。

原作もまた、そういった方向性の物語のようです。

 

それ故に、難解で意味不明な描写も多々ありますが、オカルト感を楽しむにはベストな一作という印象を受けました。

ここから狂気度マシマシすれば『マウス・オブ・マッドネス』の完成ってわけよ。

 

メイコンハイツだけが別世界という訳では無さそうです。

町そのものを認識した、というより現実のものとして体験した主人公エドが、彼にとっての現実世界と分岐した可能性の世界の重なった曖昧な状態の世界に放り込まれている感じでした。

だからなのかメイコンハイツの人々だけでは無く、あらゆるものに奇妙なズレが生じてたりします。

そういう描写の違和感や、あまりにも幸せに溢れすぎているメイコンハイツの町の不気味さが、エドが本来居るべきでは無い不安定な世界である事を示しているようで面白いです。

 

やがてエドは知的障がいを持つ息子も、それを恐れていた自分も、暗い将来も受け入れ向き合う事を選択し、本来の世界へと戻っていきました。

IFの世界を羨望してしまうのは人の性みたいなところはあると思いますが、それでも今の自分達の世界や暮らしの良いところをちゃんと見て肯定するべき、といった感じのとてもポジティブなメッセージが込められた良作だと思いました。

 

 

 

 

 

EP10よそ者を殺せ(KILL ALL OTHERS)

 体制を野放しにし続けた結果手遅れになるお話。

トータル・リコール ディック短篇傑作選に収録された"吊るされたよそ者"が原作。

 

北アメリカ大陸の国家が統合されたメガ国家、その国家の大統領選挙は唯一人の候補者のみが存在するという異常な世界観が舞台となっています。

自宅ではホログラムのCM地獄に悩まされ、勤務先の自動工場では同僚と他愛もない世間話をして適当に仕事をこなす、いたって普通の主人公。

 

ある日、候補者が発した「よそ者を殺せ」という言葉に耳を疑う主人公ですが、周囲の反応は不気味なほど鈍く困惑します。

といった感じで主人公がどんどん体制への疑念を強める中、いつの間にか街中に溢れかえっていた「よそ者を殺せ」というスローガンを、受け入れているのか或いは深く考えていないのか、スルーする多くの人々の不気味さが際立っていました。

 

主人公がおかしくなって過剰反応しているだけなのか、あるいは周囲の人々の無関心が度を越しているのか、まるでどちらが正常な反応なのか問いかけられているような感覚がありました。

 最終的に主人公は思想犯のような扱いを受けていますし「よそ者を殺せ」と書かれた巨大な看板に首から吊るされてしまうというかなり後味の悪い結末を迎えます。

 

一体よそ者とはなんなのか、誰がよそ者なのか、という根幹の部分は最後の最後まで明かされません。

それはつまり主人公がいつの間にかよそ者とされてしまったように、少しでも体制に逆らったり国家の思想や方針に反感を示した人を、都合よく敵として排除する為の仕掛けだったわけで、その言葉から抱く印象以上に恐ろしいシステムだと思います。

 

というか正直このエピソードで描かれた民主主義の皮を被った狂気国家、フィクションとは思えなかったです。

わりと現実の世界と重なってしまう気がして、余計にこのエピソードは生々しく感じました。

 

個人評価:★★★★☆

 

原作者であるフィリップKディックの作風や彼自身の創り出した世界をダイレクトに映像化している訳では無く、現代的なテイストや設定でリメイクしたような形ではあるんですが、総じて出来が良いSF作品集としても、フィリップKディックの世界観を連続で脳に叩きこむ為の訓練素材としても有用な、とてもボリューム感のあるシリーズだと思いました。

各話50分程度で展開されるドラマシリーズのフォーマットと短編集の映像化も相性が良いと思いますし、シーズン2を期待せざるを得ないです。

 

このドラマはアマゾンプライムビデオで視聴できます。 

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  • 発売日: 2020/05/22
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ではまた。

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