アップグレード(2018年/アメリカ) ネタバレあり感想 ありがちなAI映画とはちょっと違う面白さが満載。
人体シェアハウス。
『アップグレード』
(UPGRADE)
予告:
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
妻を殺された男が、自身に埋め込まれた高性能AIと協力し犯人を追う。
■感想
いきなりゴリゴリに結末に関する言及になりますが、お前がアップグレードされるんかーい!といった感じで、タイトルが伏線になっている映画です。
つまり、主人公グレイが高性能AIを埋め込まれた事でアップグレードされるのではなく、そのAI”STEM”がグレイを利用して自己をアップグレードしていく、という内容でした。
誰のアップグレードが描かれているのかは中盤くらいで予想できます、読めるんですが、それでも圧倒的に面白い映画でした。
序盤で描かれるグレイとアシャの乗る自動運転車の事故シーンと中盤のカーチェイスでステムによる自動運転車のクラッキング描写を重ねていたり、肉体の主導権について意識させる描写を入れて中盤以降ステムに主導権が移っている事をより強調したり、何日もVRの世界に籠る人々に対するステムの見解だったりと、ステムが黒幕である事を匂わせるシーンが沢山ありました。
伏線に気づいてオチが透けると面白さが半減してしまう作品って結構あるというか大概そういうもんだと思うんですが、この映画は伏線に気づきステムが黒幕である事に気づいてしまう事によって、むしろ面白さが加算されていくように思います。
ステムという超高性能AIの恐ろしさが伏線に気づけば気づくほど高まり、黒幕である事を確信すればするほど、どうする事も出来ない絶望感だけが強調されていくような感覚に陥ります。
最終的に全てステムによって仕組まれた事件だと発覚する事で、ステムを移植される前のグレイどころか開発者のエロン、グレイとアシャを襲撃したフィスクすらも最初から全てステムの掌の上で踊らされていた事も同時に発覚します。
これはステムが機能した瞬間から、ステムによる支配が人の意識外で既に成立していたという事であり、人の手によるコントロールも既に離れていたという事でもあります。
そしてそれらが傍から見ればアンコン不可能になったAIの暴走でしかないんですが、ステム当人からすれば個としての自分を形作る為の純粋な手段であるという、実はどこにも悪意が存在しない構造になっているのが中々考えさせられます。
サイコパスAIステムくん。
ステムを埋め込まれた主人公グレイ以外にも、義体化したキャラクターが敵対者として登場し、彼らとグレイとの戦闘シーンもかなり見所詰まっていたと思います。
ステム主導のグレイの戦闘シーンの無機質かつ無駄の無い格闘シーンは相当シュールで、それに慣れてきた頃に今度は人体を支配するAI同士の格闘シーンも組み込んできて異質さの鮮度を落とす気が全く無くて笑いました。
そう言えばその無機質格闘シーンの対戦者であるフィスクが、自身に組み込まれたAIが意識と融合しているかのような発言をしていましたが、ステムは彼(と恐らくその中に在るAI)を旧型呼ばわりしているのも面白いです。
人と交わったAIよりも人を支配したAIの方が優秀だと示しているようですが、実際にはステムは戦闘でフィスクに負けていて、反撃のチャンスを作ったのがグレイの人間ならではの挑発だったというのが良い感じに皮肉効いていると思いました。
グレイの意識を支配するような事が最後まで無いんですよね。
サイバーパンクに対するパンクを感じる。
最終的な肉体の乗っ取りも、グレイの意識は仮想現実で幸せに過ごさせていますし。
そこがまた独特というか、意識や自我を支配せずとも人間なんて簡単に操れてしまう格の違いを感じて好きです。
■〆
個人評価:★★★★★
高性能AIが自身をアップグレードする為に人間達をフル活用し、巻き込まれた人々はもれなく不幸な目に遭う映画でした。
AIを人間のサポートをしてくれる超頼れる存在として表面的には人間とAIのバディモノのように描き続け、しかし同時にAIの真の意図もチラつかせ、最終的にAIによる自己のアップグレードが完了し人間世界に暗雲が立ち込めるような雰囲気で終わる、かなりパンチ強めな内容だと思います。
超高性能AIをめちゃめちゃネガティブな方向性で描いていますが、感覚としてはもはや一種のホラーに近く、AIを批判する為だけの映画でも無い気がしました。
自分の意志で行動していたはずが、実は誘導させられていたというオチは洗脳ジャンルに近い恐ろしさも感じます。
すごく面白い映画です。
この映画は下記の配信サービスで視聴できます。
ではまた。