趣味と向き合う日々

映画やドラマなどの映像作品を中心に気ままに書いています。


映画評論・レビューランキング

未来世紀ブラジル(1985年/イギリス) ネタバレあり感想 管理社会に翻弄された男を描くSFブラックコメディ。

 

ディストピア映画と言えば大抵名前が挙がる作品。 

監督のテリーギリアム曰く1984年版"1984"とのこと。

 

未来世紀ブラジル

(BRAZIL)

Brazil (字幕版)

Brazil (字幕版)

 予告:

youtu.be

 以下、ネタバレを含む感想記事です。

 

 

ストーリー

徹底した管理社会で起きた小さなミスの修正に男は奔走しつつ身勝手に恋する。

 

 

感想

この映画は、ジョージ・オーウェルの『1984』に代表されるような、人々の生活や行動思想などが国家によって徹底的に監視・管理され統制されたディストピア社会を描いた作品です。

果たして本当にこれはフィクションの範疇の話なのかと疑念を覚えるような、妙な現実感がまとわりつく管理社会の姿を、全体的にコミカルなテイストで描く事で冗談めかしつつ現実社会を風刺しているような印象を受けました。

 

無実の男が手違いで情報局に連れ去られた末に抹消され、その後始末をする事になる情報局務めのサム。

情報局のミスを隠蔽する為に、目撃者であるヒロインのジルも消されそうになりますがサムはジルそっくりの女性が夢に出てきたことから彼女に何故か一目ぼれし、ジルを助ける事に。

そんな感じの内容を下地にコメディらしいドタバタが繰り広げられました。

 

毒のある演出も多い映画でした。

爆弾テロが発生し混乱する店内で他人事のように食事を続ける主人公と母親とその友人達であったり、何をするにも書類のサインと受取が無駄に求められたり、整形中毒の婦人たちであったり、ところどころに狂気がチラついています。

そして直接的な描写は無いものの善良な市民である事が伺える、手違いで消されたバトル氏と、無能でも母親のコネで昇進する上級主人公サムの二者の対比には社会の闇を感じました。

本来社会の敵として消されるはずだったラトル(ロバート・デニーロ)が、単に市民の為に善意でエアコン修理してくれるおっさんだったりするのも同様で、何かが狂ってる様をブラックコメディとして取り扱っている感じです。

 

 

 

 

ただでさえ様子がおかしい世界を描いた映画なんですが、サムが繰り広げた突飛な出来事の数々が、終盤辺りで突然真面目に解釈されはじめ更に様子がおかしくなります。

 

コメディだから許されていたような出来事が全てシリアスに捉えられ、サムが異常者として仕立て挙げられていく理不尽さは中々のもの。

コント番組観て笑ってたおっさんが突然真顔で内容考察始めるみたいな不気味さです。

そしてサムは情報局に捕らえられて尋問を受け思考が破壊されてしまうという、とんでもなくダークなラストを迎えて本気で驚きました。

 

最後は情報局の尋問に耐えられず、精神崩壊するサム。

サムが捕らえられ尋問官みたいなおっさん達にサムがどんな罪を犯したのか淡々と伝えられるシーンが実質この映画のオチだと個人的には思っていて、その後のサムの妄想世界は最後の一押し的な感じで狂った世界を印象付ける為のものなんじゃないかと捉えています。

廃人になったサムが夢の中だけで幸せな結末を迎えるラストは、徹底的な管理統制社会が市民の幸福の為では無く統治者の為のシステムである事を端的に描いている様に思いました。

 

 

 

 

主人公サム・ラウリーの人間性が致命的なレベルで魅力に欠いていて、基本的に彼の身勝手な行動と子供じみた挙動が事を大きくしてしまっている印象でした。

めっちゃ寝坊するしどこでも寝るし後先考えないでとりあえず何かして事態悪化させるし開き直るし周りの人達にアホほど迷惑かけても懲りないし。

わりとクズ主人公な気がします。

 

それはコメディとしての演出でもあるんですが、ギリギリ面白さよりも不快感が勝ってしまって、しかもヒロインのジルがそんなサムと恋に落ちる流れも不自然に感じます。

ついてくるなってジルに言われてるのにサムはガンガンついて来るので彼女は困惑しますしサムは愛の告白を初対面で敢行しますし、しかもサムはその後に起きた爆弾テロの犯人としてジルを咎め始める始末。

それなのにジルはサムの前に現れ二人は結ばれるという展開は本当に謎。本当に謎。

吊り橋効果的な事なの?

 

 

 

夢の世界で知り合った女性そっくりの現実世界の女性に出会って惚れて、色々とめちゃくちゃな事になった末に夢の世界で幸せな結末を迎えるという、幻想に溺れた男の話という見方もできるかもしれません。

サムの夢の描写は何かを暗示しているというより、妄想の中でヒーローである自分が救おうとした女性が現実世界にも居たから、現実世界でも彼女を追ってヒーローになろうとした結果、現実に殺されてしまった、みたいな事を描く為の要素として使われているように思いました。

 

個人評価:★★★☆☆

徹底的な管理システムと統制に基づいたディストピア世界が舞台ですが、遠い未来の出来事では無く20世紀のとある国の有様を描いているという設定です。

むしろ劇中に登場する未来的な構造物や機械類、人々の生活様式などがあからさまに古臭さに満ちています。60年代くらいの空想科学レベル。

1984年版"1984"と監督が表現している様に、制作年代時点で再解釈した管理社会の姿をレトロフューチャー的に投影し直したような雰囲気で好きです。

人間が目覚めたら全自動で朝活準備してくれるシーンとか『ブースカ』の第一話がフラッシュバックしました。ブースカはハードSF。

快獣ブースカ COMPLETE DVD-BOX

快獣ブースカ COMPLETE DVD-BOX

  • 発売日: 2013/03/22
  • メディア: DVD
 

 

それだけでは無く、夢の世界と現実の世界の交差での揺らぎ 、終盤でのサムの現実逃避によるサイケデリックな妄想世界のシーンなど、異質さが目立つ演出や展開が多くて視覚的な満足度、面白さは個人的にはかなり高かったです。

 

個人的には主人公がいけない人間過ぎてちょっとそこが合わなかった部分もあるんですが、ブラックコメディ風刺映画としての出来の良さはかなりのものだと思いますし面白かったです。

 

この映画は下記の配信サービスで視聴できます。

Amazonプライム・ビデオ

Amazonプライム・ビデオ

  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: アプリ
 

 

 

ではまた。

Brazil (字幕版)

Brazil (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 
未来世紀ブラジル [Blu-ray]

未来世紀ブラジル [Blu-ray]

  • 発売日: 2012/02/03
  • メディア: Blu-ray