オートマタ(2014年/スペイン・ブルガリア) ネタバレあり感想 サイバーパンクな世界観で描かれるシンギュラリティ。
この手の映画で人間さんサイドがロボットを虐げている率の高さは異常。
『オートマタ』
(AUTOMATA)
予告:
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
太陽フレアの影響で砂漠化の進む2044年の地球では総人口が2000万人程度まで減少し、人間のサポート役として人型ロボットが運用されていた。
ロボットには絶対に破る事が出来ない2大原則が設定されていた。
しかしその原則に触れる行動である自己修復をロボットが行っていた事から、ロボット開発元ROC社の保険代理調査員であるジャックは、彼らを改造した技師を探し出す為調査を始める。
■感想
酸性雨の降り注ぐ多様な言語の広告とホログラムが彩る退廃的な都市と荒廃した砂漠地帯を舞台に、機械が人間の理解できる領域を超える様を描いた映画。
『ブレードランナー』からの影響は言わずもがな、『われはロボット』のような超古典SFや同年に公開されている『トランセンデンス』のような技術的特異点を題材にした作品など、多くの近未来SFの要素を持ち合わせるキメラ作品という印象を受けました。
人型ボディを与えられたsiriみたいな、ちょっと強化したAIアシスタントくらいの挙動しか見せなかった人型ロボットの中に、明らかに不審な挙動を見せる個体が確認されて、謎が深まっていく様がとても面白い映画です。
彼らが突然飛躍的に進化した理由、この映画の根幹を成す最大の謎の理由ですが、元々はプロトタイプとして超高度なAIを制限なしに作り上げたところ8日程度で人間を超越し、9日目には人間側が対話不可能なまでに進化したという出来事が過去にあり、それを踏まえて2大プロトコルなる制限を設けたのが本編に登場するロボット達だったという事でした。
「生命体を傷つけてはいけない」「ロボットを改造してはいけない」という2つの制約の後者が先に破られ、結果ロボット達は進化するわけですが、なぜ制約を破る事ができたのかがちょっと分かりませんでした。
ロボットの中枢であるバイオカーネルに書きこまれた2つのプロトコルを書き換えられるのは人間では無くロボットのみ。
でもその書き換えを行っている技師ロボット君は一体何きっかけでタガが外れたのか、そこが一番気になっていたので作中で明かしてほしかったところです。
プロトタイプの超高性能AI搭載ロボット君が2大プロトコルを造り出してバイオカーネルに書き加えたとの事ですし、もしかしたらその時点ですでに人には分からない仕組みで種がまかれていたのかも。
前半ではいかにもサイバーパンクな世界観と舞台を元に、不審な挙動を繰り返すロボット達と改造を行ったであろう首謀者の技師を探すというミステリー色の濃いSF映画ですが、後半では広大な砂漠地帯を舞台に制約が無くなったロボット達が加速的に進化していく様が描かれました。
ロボット達と過ごし対話を繰り返すうちにジャックは彼らが次の世代を担う種である事を確信します。
技師ロボット君もジャックとの対話の中で人間を超えた存在として人間の痕跡を受け継ぎつつも進化し続ける、といった感じの事を言ってました。
進化したロボットによる人類への攻撃が行われる訳では無く人類が滅びるきっかけとなる訳でも無く、あくまで人類は自然に滅びるだろうというスタンスをロボット達が取っているところが面白いです。
というか人間さんサイドの暴れっぷりが目に付くシーンの方が多くて、虐げに虐げられたロボットさん達が人類に復讐や攻撃をするでもなく、悟りを開いちゃったような感じでただ人間の攻撃衝動を受け止めてあげているようにも見えました。
凄まじい全能感。
人間によって生み出された人工知能だからって人間みたいな感情や思考を獲得しているわけじゃないんですよね。
既存の生命体とは決定的に違う高次元の知性と秩序を持ち合わせた全く新しい種として描かれているような印象を受けました。
知的生命体やその延長では無く、全く新たなカテゴリーの存在になったイメージ。
ロボット達は更に全く新しい多脚型の存在を生み出していて、それはシンギュラリティを象徴する存在のようにも思えます。
当然2大プロトコルは設定されておらず、まして人間と対話する必要性も与えられていません。
進化そのものを目的に生み出されたストイックな存在というイメージも受けますが、一方でやたら生まれたての赤子らしさも見せてくれる不思議な存在。
その多脚型の新型を造り出したあとで、メカ娘のクリオちゃんが生まれたばかりの娘と妻と抱き合うジャックを不思議そうに見つめる描写がありました。
それを踏まえるとこのクリオちゃんの描写は、自己進化を加速的に続けるAIが生命の神秘を逆算的に理解していくようにも見えて面白いです。
■〆
個人評価:★★★☆☆
人間が生み出したロボットが人間や生命体を超えた何かになる様を描いた映画です。
一方的に命令を下す対象から対話可能な存在となり、そして最後は全く新しい存在になるロボット達に対する印象が、不気味な存在から未知の神秘性と可能性を秘めた次世代の種へと変わっていく感じがして面白い映画でした。
なぜプロトコルを破る事が出来たのかとか疑問の残る部分もありますが、個人的にはかなり楽しめました。
現在下記の配信サービスで視聴可能です。
ではまた。