クロニクル(2012年/アメリカ) ネタバレあり感想 思春期の歪みと超能力がかけ合わさった非日常系青春映画。
『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズをオススメしてくれた友人が教えてくれたので期待値かなり上げて観たら全然はるか上を超えてしまった凄く面白い映画。
『クロニクル』
(CHRONICLE)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
超能力を獲得してはしゃいでいたら歯止めが利かなくなる。
■感想
超能力を手に入れた三人の高校生の日常と顛末をモキュメンタリー形式で描いた映画。
基本的には三人のうちの一人であるアンドリュー(デイン・デハーン)の撮影するカメラの映像を軸にしていますが、他にも様々な映像記録を切り貼りして構成されており、ファウンドフッテージらしさが全開。
そんな作風なので「撮ってる場合か」感ゴリゴリの、超危険な状況下での冷静なカメラワークに違和感を覚える瞬間もほんの少しだけありました。
ただ、それを踏まえても尚モキュメンタリー形式で作った理由と言うかその必要性が明確な映画なので、総合的に面白さと鋭さがはるかに勝った印象です。
超能力を獲得するメインキャラ高校生三人のうち、主に撮影と暴走を担当するアンドリューを中心にストーリーは進みます。
アンドリューは内向的で友達もほぼいない劣等感に塗れたシャイボーイな上に母親は重病人で父親は無職の暴力漢という力いっぱい辛い人生を歩んでいる高校生。そりゃ歪んだって仕方ない。
そんな彼は、ある日いとこで学校ではお調子者を演じている根は真っすぐな青年マット(アレックス・ラッセル)と、マットの友人であり生徒会長候補でもある人気者スティーブ(マイケル・B・ジョーダン)の二人に連れられ謎の地下空洞を嫌々探索し、明らか怪しい光を放つ物体と接触してしまい三人は超能力を獲得します。
二人が学校ではカースト上位っていうのも今思えば明確なフラグなんですが、この映画は中盤辺りまで超能力を獲得した三人の日常と友情を描く感じの軽快な青春コメディっぽく進むので、アンドリューがしっかりじっくり狂っていった事に中々気づけませんでした。
というかむしろ、二人の友人が出来た事と彼らとの関わりの中でアンドリューの人生が良い方向へ変わっていくようにも見えて、序盤までならハッピーな結末すら予感させてくれます。
アンドリューの唯一の楽しみが撮影であり彼は自身の日常の全てを記録するわけですが、だからこそアンドリューの抱える悩みや問題や劣等感がそこには実は生々しく映し出されていて、それに気づいてからは超能力で遊び回っている時の楽しそうな姿とのギャップで観てるこっちの精神が削られました。
もちろんアンドリューはこの後タガが外れて暴走することになるんですが、一方で彼自身が本来は優しくて良い奴である事も、彼の日常を通してしっかり描かれるので、物凄く複雑な気持ちのままアンドリューの顛末を見守る事になります。
超能力ゲットではしゃぎすぎて大人を病院送りにし、スティーブの後押しで学校の人気者になった夜に初エッチに失敗し再び笑い者になり、心配して駆けつけたスティーブをうっかり雷撃で絶命させてしまい、それを追求しようとしたマットとも決別してしまい再び孤独になってしまうアンドリュー。
あと無表情で蜘蛛の身体を爆散させるシーンとかもあってヤバさの片鱗を惜しげも無く醸し出してくる後半は、もはや前半とは全く別の映画と言って良いレベルだと思います。
そんな中で頂点捕食者(Apex Predator)というキーワードに憑りつかれ、自分が他の人間より勝った存在である事を妄信し始め、遂には屑の父親の説教にブチギレて完全に暴走してしまいます。
父親を超能力でKOした後、母親の薬代の為に近所の半グレ達を懲らしめて、ガソスタ強盗も敢行しますが、そこで起きた爆発に巻き込まれ気絶、その間に母親は亡くなってしまうというあまりにも救いの無い後半のラッシュは脳弾けそうになりました。
しかし、もちろんそんなアンドリューの状況や彼自身の事を理解しているマットが駆けつけなんとかアンドリューを止めようとしますが、最早手遅れで二人は超能力バトルを繰り広げ街中を破壊し、最終的にマットはアンドリューを殺害し、警察の包囲網から逃走。
その後マットは三人で行こうと計画していたチベットの地で最後の撮影を済ませた後どこかへ飛び立つシーンでこの映画は締めくくられます。
これ地味にマットすら救われない形で終わってるのが衝撃的でした。
マットとスティーブ、アンドリューの三人は超能力を獲得した事で親友の仲になり、しかし最終的には超能力のせいで不幸な結末を迎えている事にもなります。
一概に、超能力なんか初めから無かったらよかった、とも言えないオチがついているのが凄く上手い作りだと思いました。
コンプレックスや劣等感が超能力の暴走を加速させてしまう様は『AKIRA』の鉄雄と凄く似ています。
鉄雄もでしたけど、ネガティブな感情でどんどん力を付けて、その結果孤立して、最後は破滅するというルートは、後味も悪いし可哀想な事も多いのに魅力的に感じて不思議です。
もしかしたらネガティブで不幸なキャラの顛末のほうが、人間味がより明確に感じられるからなのかもしれないです。
■〆
個人評価:★★★★★
元々孤立していたアンドリューが超能力を得た事で友人が出来て人生が変わるのかと思いきや、その超能力のせいで最後は暴走し悲惨すぎる結末を迎えるという悲惨さ極まった内容。
前半の超能力を得た高校生らしいくだらない遊びではしゃいでいた雰囲気がみるみる内にそぎ落とされて、最後には誰も救われないところに終着するので、それなりに精神強度を求められるタイプの映画かもしれないです。
ただそれでも圧倒的に面白い映画だと思います。
映画の雰囲気がどんどん変わっていって、次に何が起きるのか全く予想できない展開と嫌でも察してしまう展開が上手い具合に絡んでいたり、モキュメンタリーならではの生々しさがしっかりと映画の根幹に絡んでいたりと、構造的にも内容的にも楽しめる要素がたくさんあると思いました。
ではまた。