マシニスト(2004年/アメリカ・スペイン) ネタバレあり感想 罪と向き合わない日々。
不眠症の男を題材にしているとか、主演のクリスチャンベールの役作りが常軌を逸してるとか、そういう話だけ聞いて満足して観る事が無かったので、いざ観てみたら良い意味で思ってた内容と違くて驚きました。
『マシニスト』
(THE MACHINIST)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
不眠に悩むガリガリの機械工トレバーが、アイバンという謎の男の影を追う内に周りの人間がみんな敵だと思い込み始める。
■感想
過去に子供をひき逃げをしてしまったことで、睡眠不足に陥り、ひき逃げ事故の記憶を封じ込めようと心が防衛反応を示した結果記憶力も曖昧になり、過度な妄想癖に陥り、総合的に良い感じに精神が危うくなった元ポッチャリ体型現スキニー男が、その罪と向き合うまでを描いた映画。
ネタバレ無しでの説明不可能過ぎませんかこの映画。
ひき逃げから一年ほど経った時点から物語が始まり、ゴリゴリにガリガリな主人公トレバーの仕事と女と酒の日常の中に様々な違和感が仕込まれ、次第にそれらがトレバーが消し去ろうとした過去に繋がっていく流れはとても巧妙で面白ったです。
トレバーの罪の意識が生み出した空想上の男アイバンというキャラクターが登場します。
過去のトレバー自身をダーティに誇張した存在がアイバンですが、その事に気づかずトレバーはアイバンという存在に振り回され、それが自己完結せずに周りの人間に対する敵意というおまけ付きで発散されるようになりトレバーの日常はよりややこしい事に。
トレバーは次第に周りの人間が皆アイバンとグルで、皆で自分をハメようとしているんだという強迫観念に囚われていきますが、この辺りはわりと映画を観るときのプロレス力が求められている感じがしました。
アイバンの二度目の登場シーンの時点で既に不自然なほどスムーズに交通量のある交差点を車で突っ切って消えるシーンがあったり、トレバーの務める工場の従業員リストにアイバンの名前が無い事が示されたりと、この男が実在しない事はなんとなく序盤あたりで察する事はできます。
トレバーの注意不足で工場の同僚の片腕を吹き飛ばしてしまうという事故が起こった後、トレバーは工場の同僚たちから避けられるようになるんですが、その後たまたま機械の誤動作でトレバー自身の腕も吹き飛びかけるという偶然が重なった事で、トレバーはこれを工場の同僚たちの仕業だと断定。
ついには片腕無き被害者男性宅に凸して「お前が復讐しようとしてやったんだろ!!」と発狂する始末。
この辺りの展開ってトレバーの精神が限界突破寸前な事を示すだけでは無く、自身の過ちにストレートに向き合えないというトレバーの性格と傾向が描かれた出来事でもあると思います。
工場での事故を起こした後にアイバンは初登場するんですが、その際にアイバンの片手に大怪我の痕跡が残っていたりするので、工場での事故がきっかけで一年前の自身の起こしたひき逃げ事故の、保留したままうやむやにしようとしていた心のシコリ的なやつが覚醒してしまった感じなのかもしれません。
つまり主人公トレバーの心が限界を迎えていく過程を、様々な謎と伏線と共に観察して理解していくようなスタンスの映画なのかと思いました。
主要人物っぽい感じのアイバンが空想上の男というだけでは無く、劇中で描かれるトレバーの日常の多くも妄想の世界の出来事が描かれていました。
現実のシーンと妄想のシーンは一見シームレスなようで明らかに色調が変わって違和感が残るような繋がり方をするので、なんとなく察せるような感じになっていました。
色調だけじゃなく、トレバーが笑顔を見せたりバイタリティを感じるようなシーンは妄想の世界だけだったように思うので、その辺りのトレバーの印象の違いもヒントになっているのかもしれません。
トレバーが本来どういう人間なのかも垣間見れるように思うんですよね、妄想のシーン。
妄想だから全てが良いように描かれてるのかもですが、妄想シーン内のトレバーの姿は多分事故を起こす前の自分自身の再現なんじゃないかと思うんですよね。
とはいえ結局のところ、あんなにガリガリになり精神の限界を迎えつつある極限状態に陥って尚、過去のひき逃げ事故と向き合えなかったトレバーがヤバい奴だったかもしれない事には変わらないんですけどね。
■〆
個人評価:★★★★☆
最終的に自首する事でトレバーは罪の意識から解放されて、ぐっすり眠れるようになりましたエンドを迎えるわけですが、本当の贖罪は刑務所に入ってから始まるわけですし、雰囲気的にもそうですがまずハッピーエンドとは言えない絶妙な重苦しさが残る映画でした。っていうかなに勝手に自己完結しようとしてんだよ感がすさまじい終わり方。
罪の意識と向き合えず心も体も病みに病んだ男が限界を迎えつつある様を、様々な謎や伏線を交えつつジワジワと続く違和感と共に描いていてとても面白い映画でした。
現在、下記の配信サービスで視聴できます。
僕は今回アマプラで観ました。
ではまた。