WWⅡ最前線 カラーで蘇る第二次世界大戦(2019年) 感想 WWⅡの出来事を知る為のきっかけとしてフルカラー化で見やすくするってのはアリかもしれない。
制作を主導したのは多分アメリカとイギリスだと思うんですけど詳細不明!
ネットフリックスオリジナルのドキュメンタリーシリーズ。
『WWⅡ最前線 カラーで蘇る第二次世界大戦』
(GREATEST EVENTS OF "WWⅡ" In Colour)
画像引用元:Netflix
以下、シリーズ全10本の内容に関する感想記事です。
■感想
第二次世界大戦勃発から終結までの有名な出来事を10本に絞り、当時の記録映像をフルカラー化して構成されるドキュメンタリー。
戦争、特に世界大戦はあまりにも多くの視点から分析や影響を語る事が出来る題材であり、このドキュメンタリーはマクロに第二次世界大戦を捉えて代表的な出来事を改めて紹介するような構成である為に、良くも悪くも統一感の無いエピソード選定がされています。
偉人伝であり戦史であり政治劇であり兵器開発史でもあり反戦ドキュメンタリーでもあり経済学でもあり、なんでもあり。
戦争ドキュメンタリーと言ってもその多くはミクロにスポットして構成される事が多い中で、このシリーズのように大枠で捉えて紹介していくスタイルは独特かもしれません。
あらゆる要素を込め内容がごちゃごちゃしている代わりに、ヨーロッパとアジアで展開された戦いや出来事が、実際にどの出来事がいつ発生したのかをストーリーを追う様に分かりやすく配置されています。
この紹介スタイルはかなり見やすく分かりやすいですし、歴史ドキュメンタリーとしての面白さが意識されて作られています。
エピソード1ではナチスの台頭から1939年のWWⅡ開戦までの流れを踏まえつつ、ドイツの電撃戦に焦点を当て、その戦術がいかに当時衝撃的だったかを研究者や当事者達の解説を交えて紹介。
電撃戦は新兵器と旧来のドイツの戦術の融合の賜物であるといった解釈がされていたり、中々面白い視点で電撃戦やその効果を説明していました。
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そしてエピソード2では1940年に起きたドイツとイギリスによる一大航空戦である「バトル・オブ・ブリテン」を紹介。
「バトル・オブ・ブリテン」に至るまでの流れを中心に描かれるエピソードでしたが、その後のロンドン大空襲なども併せて解説されています。
なぜかイギリスとドイツ双方がそこに至るまで如何にしくじりまくったかの解説に力を入れまくってました。雑学枠かな。
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エピソード3は太平洋戦争開戦のきっかけとなった1941年の真珠湾攻撃についてです。
ごく最近制作されたドキュメンタリーという事もあってか、従来よりも冷静な視点から真珠湾攻撃に至るまでの流れやその理由が語られていて少し驚かされます。
なぜあの奇襲攻撃が実行されたのか、もちろんこのエピソード内で語られた以外にも様々な理由や推測がありますが、今の国外の真珠湾攻撃のおおよその見解が分かるという意味では、日本人的には物凄く興味深いエピソードでした。
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エピソード4はアメリカと日本が空母艦隊で殴り合った大海戦である1942年のミッドウェー海戦を紹介。
ミッドウェー海戦での敗北がその後の日本劣勢のきっかけになったという説も簡単に紹介しつつ、このエピソードの面白いところは、あくまで戦術に焦点を当てる形で構成されている点です。
日米双方の思惑と作戦を織り交ぜて、戦術シミュレーションのように状況を追って解説してくれますし、その上で最終的にこの海戦は運で勝敗が決したという見解も提示していて中々エンタメ性に舵を切った内容で面白いです。
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エピソード5では太平洋戦線から再びヨーロッパ戦線に戻り、ドイツとソ連による1942年のスターリングラード攻防戦を紹介。
スターリングラード攻防戦に関しては僕は各種映画作品の印象があまりにも強かったので、エピソードの内容がまるまる全部衝撃的でした。知らなすぎた。
攻める事に軍事的な価値は実はあまり無かったらしいスターリングラードにドイツが侵攻した理由はスターリンの面子をつぶす為、面子を潰されたくないスターリンも全力で反撃というプライドウォーだった意外性はもちろん、その戦闘の経過や結末まで、とにかく知らない事尽くしでしたし印象が全く変わりました。
映画の影響って良くも悪くもデカいんだなって思いました。小並。
あと、フルカラー化した意味がほぼ無いくらい白と黒の世界でした。それが逆に怖かったです。小並。
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エピソード6は、連合国によるフランス領奪還の為のオーバーロード作戦の始まりであり信じられない程犠牲者が出た1944年のノルマンディー上陸作戦を紹介。
『プライベート・ライアン』の冒頭のあれです。
ノルマンディー上陸作戦は、他のドキュメンタリー作品や題材にした作品では、連合軍とドイツの間での上陸ポイントの読み合いを中心に構成されていたり、浜辺での戦闘なんかが中心にされその死者数の多さと無謀さばかり強調されがちですが、このドキュメンタリーでは作戦決行日"Dデイ"に至るまでの苦難の道のりを中心に構成されていました。
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エピソード7は1944年に起きたバルジの戦いについて。
このエピソードはとにかく情報量と内容の濃さが凄まじかったです。
戦術の根幹が、連合軍が持つ制空権の優位性を悪天候による阻害に頼るという点に置かれているヤバさ、意味不明な突然の大攻勢に当然対応できず大パニックに陥る米軍、そしてヒトラーがこの時既にヤブ医者の手でジャンキーと化してしまっていた事など、WWⅡドイツの最後で最大の戦いであったバルジの戦いの裏側と、その不毛さもまじまじと感じられるような構成でした。
小話的に、英語を話すドイツ人特殊部隊が米軍に紛れ込んで色々と小細工して混乱させた作戦が紹介されていたり、ドイツ人による米軍捕虜の虐殺事件とされる「マルメディ虐殺事件」が取り上げられていたり、気分に迷う謎構成。
戦車を中心にした映画やゲーム作品なんかでよく題材にされますが、ドキュメンタリーとして実際の映像と共にその戦況を見てみると、意外と最大の戦車戦というイメージは薄く、むしろ連合軍の空からの攻撃が期待できない状況だから結果的に戦車がめちゃめちゃ仕事したみたいな、そんなイメージになりました。
動くティーガー2の映像が観れて満足です。
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エピソード9は1945年に、イギリスがドイツのドレスデンを空爆し、大量の民間人を死亡させた出来事の紹介でした。このチョイスは本気度高い。
これまで一貫して連合国と枢軸国の双方が抱えたり巻き起こした事件や問題などを、あくまで中立的に紹介していたこのシリーズで唯一、中立的な立場を取る事を諦めかけているエピソードがこれだと思います。
ドレスデン空襲って、どう考えても過剰攻撃が生んだ事件だと僕は思っていて、どんなに言い訳を並べたところで東京大空襲や広島と長崎に落とされた原爆となんら変わらない完全な無差別攻撃だと思っています。これはもう他の軍事作戦とは訳が違う出来事だと思うんですよね。
空爆狂扱いされてしまっている航空爆撃軍団司令官アーサー・ハリスの立場や言い分と、イギリスがこのとき直面していた問題はもちろん取り上げられてはいましたが、それでもやっぱり擁護しきるのは難しかったのか全体的に批判的な内容となっています。
一応エピソードの締めとして、ドイツだって収容所でたくさん殺してるし両成敗的なアレかな……的な形で落としどころは作っていましたが、事件の残虐性は全く隠しきれていません。
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そんなドレスデン爆撃を紹介したからなのか、カウンターウェイト的にエピソード9で紹介されるのがドイツの強制収容所について。
こっちは狂気のホロコーストを全面に押し出した内容って感じでした。
ソ連からの強制収容所発見の報告を信じられなかった米英が、実際にブーヘンヴァルト収容所を発見した事でナチスの強制収容所の実態を把握するまでを、順を追って解説するような内容。
これはこれで擁護不可ですし、戦争末期の人間性の崩壊具合がEP8のドレスデン爆撃と併せて実感できるような感じです。
EP8もEP9も、この後に最終エピソードとして紹介される広島長崎への原爆投下も、倫理観が欠如してしまう戦時下の心理状況とかそっち方面で構成した方が良いんじゃないかって気がしないでも無いです。
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締めとなるエピソード10は、1945年の広島・長崎に対する原爆投下について。
現時点で史上唯一の核攻撃であり、45年当時は核兵器開発成功直後だった事を踏まえてもその威力の凄まじさは十分に理解されていました。
なぜこれが実行されたのかを考察するような形で構成されていました。
「戦争終結を早めるため」という従来よく叫ばれていたアメリカ側の大義名分をまるで無視するような形で、あくまで実利と思惑を中心にして、原爆を使用した理由と背景を中心に描いています。
結局それは科学者たちの科学実験的好奇心に遠因があるという事を、堂々と批判する形で紹介できる当たり、良くも悪くもアメリカが強国たる所以を実感できます。
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■〆
個人評価:★★★☆☆
毎エピソード「フルカラー化した事で新たな事実が浮かび上がる」的な導入から始まりますが、フルカラー化の恩恵はシンプルに見やすさ一点集中です。
大戦中に記録された恐ろしい光景や悲惨な出来事など、フルカラー化によって生々しさが強調されてしまう部分もあるので、視聴の際はかなり注意が必要ですが、それは同時に当時のリアルな光景を実感するのに大いに役立っていると思いますし、改めて戦争やその惨禍を考えるきっかけになる事は間違いありません。
とはいえそこまで気を張って重々しく観るようなシリーズでもありません。
わりと当たりなタイプのドキュメンタリーだと思いました。
現在、ネットフリックスで独占配信されています。
ではまた。