藁の楯(2013年・日本) バレあり感想 面白そうなストーリーをミスマッチ極まった演技とセリフと演出が殺してしまっていると思う。
邦画の記事ってこれが初めてになるみたいですね。
先に書いておくと僕は邦画アンチでは無いです。今まで邦画の記事を書いてないのはたまたまなだけです。
邦画はよく観るし、好きな映画もいっぱいあります。
映画は国で判断して観る事はあまりなくて、とにかく観てみたいっていうのを観てるだけのスタンスです(インド映画だけは身構えてしまいます)。
なんでこんな前置きをするかというと今回の記事は荒れているからです。
マジでこの映画……これマジなのか。
『藁の楯』
この映画、藤原竜也だけで保ってるようなもんだと思うわ。
ネタバレを含む感想記事です。
■あらすじ
8年前に少女殺害の罪で逮捕され、その後仮出所中だった清丸国秀は、資産家の蜷川隆興の孫娘を強姦して殺害、逃走した。
蜷川は新聞の一面を初めとする大口広告枠やネット上で削除不可能なHPを立ち上げるなどして「清丸を殺した者には10億出す」と告知。
それを受けて、清丸を匿っていた中国マフィアのボスが清丸を殺害しようとするも失敗。
この出来事に恐れをなした清丸は保護目的の為自ら福岡県警に出頭する。
警視庁警護課所属のSPである銘苅一基と白岩篤子、警視庁捜査第一課の刑事である奥村武と神箸正樹、そして福岡県警の関谷賢示の五人は清丸移送メンバーとして、清丸の命を護りながら警視庁を目指すことになる。
移送メンバーの敵は一億二千万人の日本国民だった。
■感想
良いなぁとおもったところ、悪いなぁと思ったところを分けて書いています。
良かったと思う点
ストーリーの進み方がとても良かったと思います。
全体的にテンポが良く、どんどん話も展開していくので楽しめました。
福岡をスタートする際に飛行機が使えなくなり、大規模な警察の部隊を編成し、そこで問題が発生し、続いて移動手段を新幹線に移し、でもまた問題発生、最後は一般人の車両を使うといった感じ。
この流れの合間にも色々あったりしますが、イベントの展開速度はかなり良い感じだと思いました。
一切だれる事が無く、勢いがあって楽しめます。
ストーリーの緩急の付け方ってきっと難しいんだろうなって、いつも色んな映画観ながら思ってるんですが、この映画は本当にその部分が良く作られてると思いました。
あと藤原竜也の演技。
わりとマジでこの人の演技を以ってこの映画は成り立つというか、そのくらい凄まじいものがありました。
主人公を演じた大沢たかおさんも後半の演技は凄かったと思います。
鬼気迫る感じとかね。
でも藤原竜也が圧倒的だと思いました。
藤原竜也は「クズばかり演じてたらこの手の役しか来なくなった」とインタビューで言ってますが、この手の役を演じられる役者が日本には他に居ないだけって話だと思うんですよね。
それぐらい圧倒的です。マジで見所だと思います。
込められたテーマの部分とかも中々魅力的だと思います。
本質的な部分を考えれば、日本人の「働き方」に対する意識、とかそういうところまで掘り下げ訴えかけられるようなテーマが込められているんじゃないかと。
良くないと思った点
藤原竜也以外の役者は、マジで何を考えてあんな演技をしちゃったの。
いや、もしかしたら役者さんだけが悪いんじゃないかもしれないです。
台詞や演出等もだいぶ酷いと思いました。
誰が、というかどこに原因があるんでしょうね……。
特有の臭さというか、観ていてゾワゾワしてしまうレベルの凄まじい違和感を覚えました。
この手の映画であんな、ある意味でコミカルにすら感じる演技されたら物語に入り込めませんって。
この作品は完全にシチュエーションで全体を牽引していくタイプの映画だと思います。
つまり「こういう事が起きたら、人々はどう行動をするんだろう」とか、
「事件の中で登場人物達はどう変わっていくのか」とか、
そういう部分が楽しさ、面白さに繋がっていくと思うんです。
という事は、その中に出てくるキャラクターに対して、強烈すぎる個性とかキャラクター性は要らないと思うんです。むしろリアリティある人物像や自然な雰囲気でキャラを描いた方が良いんじゃないかと思います。
何故ならシチュエーションがキャラをたててくれるから。
例えばソリッドシチュエーションスリラー映画の名作『キューブ』の登場人物は、必要最低限の個性しか与えられていません。
そのキャラクターのバックグラウンドや、どんな人物なのかが語られる程度。
下手したら身の回りにいそうなリアルな人物描写がなされ、その中でそれぞれの個性がアクセント的に描かれているようなイメージです。
そんな彼らが極限状況下で変化していくからこそ、強烈なインパクトを持たせられていたんじゃないかと個人的には考えています。
この映画の主要キャラクターはいずれも非現実的すぎて観ていられませんでした。
台詞の一つ一つが徹底的に漫画くさすぎます。
狙ってないとしたら終わってるし狙ってやってるのだとしたらもっとひどいと思います、そういうレベルのひどさだと思います。
そんな漫画チックな描き方をして何か嵌る点があるならまだしも、何も良い結果を生んでないです。
「こんな話し方する奴いるかよ」ってひたすら思い続ける事になりました。
だから、ひとたび登場人物の誰かがセリフを言うたびに冷めるし、登場人物に思い入れなんかわきもしませんでした。
多分、シリアスな空気感が求められ且つ深いテーマ性や哲学を内包しているはずのこの映画では、一番チョイスしてはいけないキャラクターの描き方なんじゃないでしょうか。
こいつが死ぬ時とかも、セリフが全てを台無しにしてます。
なんか言うんですよ。
撃たれて死ぬまでの間に。
何故か医療班も治療止めちゃって。
「清丸護る価値あんのか……」みたいな事を長々と。
この後の、意識が朦朧とし始めてからのセリフは良かったと思うんです。
「俺が居なくなったら母ちゃんが一人になっちまうじゃねえか」っていうセリフです。
このセリフだけの方が良いと思うんですよ、僕は。
このキャラクターは映画前半からどんな人物なのかをくどいくらいに描かれます。
所謂掻き回しポジションみたいな感じで、とにかく問題児っぽく描かれていたんです。
そして自分が護るべき対象が凶悪な犯罪者で、そんなやつの為に命を賭ける理由が分からないといった感じの彼の思想と立場を何度も描いていました。
だからこそ、死に際に「俺が居なくなったら~」のセリフだけのほうが引き立つと思うんですよ。
清丸云々のセリフ言い始めた時は本気で冷めましたよ。
ここまで印象付け続けてきたそれをまだやんのかよって。
台詞が酷いってだけなら最悪まだいい、かもしれないギリギリのラインだったかもしれません。が、やっぱり演技が致命的に足を引っ張っている印象です。
演技が映画の雰囲気をぶち壊していると言っても過言では無いかもしれないです。
とにかくその演技とセリフ回しの組み合わせがあまりにも非現実的すぎるキャラクター像を生み出してしまっています。
誇張され過ぎていると言った方が合っているかも。
逆に漫画的、非現実的な描かれ方が凄く合っていて良かったと思ったのが、藤原竜也の演じた清丸です。
というかこの映画において、漫画的で許されるのは藤原竜也の演じる清丸だけだと思います。
清丸の異常性を引き立たせる為にも、他のキャラで漫画的すぎる演技をやっちゃダメなんじゃないかと僕は思います。
清丸は逆に、非現実的な方向へ軸を持っていくからこそ引き立つタイプのキャラだと思いました。
登場人物同士の掛け合いに一切のリアリティがないと思いました。
フィクション感を雰囲気に馴染ませたりするどころか、全て水増しされたかのような演出の数々。
とにかくこのセリフと演技のせいでホントに観ていてきつい。
終盤で、松嶋菜々子演じる白岩がフェードアウトして、銘苅と清丸の二人だけになるところから、急激にこの違和感が消失していくのが、また何とも悲しい……。
結局突き詰めると、五人のキャラクターにフォーカスを当てる必要性すらなかった、というか五人もメインキャラ要らなかったって事ですらあると思いますよ。
そのキャラクター達がそれぞれうるさいくらいわざとらしいキャラクター性を存分に見せつけてきて、でも描きたい内容はシリアスで社会に訴えかけてくるようなもの、となると、もっと登場人物の尺と描き方を絞ってしまえばいいのに、と個人的には思いました。
とにかく、ただ”演技”をやっているだけにしか見えません。
ちゃんとキャラクターの役割を理解して演じる事が出来ていたのって藤原竜也だけだと思います。
あとアクションシーン、凄く力を入れている事は分かるんですが、前述の演出の誇張と違和感もあって気持ちが乗り切れませんでした。
凄いと思ったシーンも沢山あったんですけどね。
でも対人アクションシーンの殆どが、やっぱりどこか大げさに感じてしまいました。
要するに、描きたかったものと実際に描かれたものがことごとくズレているんだと思います。 終始チグハグな雰囲気のまま。
このチグハグ感のせいで楽しめた部分すら楽しめないという事態になりました。
これだけじゃないです。
大きく捉えるとチグハグ感に帰結しますが、細かい部分でも粗が目立つというか、勢いだけで進めようとしている部分もありました。
そういう手法がハマる作品っていうのはもちろんありますが、この映画では全くハマってなかったように思います。
例えば、後半の検問のシーン。
検問所まで設置して捜索されているのは、清丸の人質にされた、ということになっている銘苅と白岩の二人です。
であれば、当然検問所や捜索チームには二人の顔は割れているはずです。
しかし検問所のおっさんはこのタクシーの運転手の格好をしただけの白岩を通してしまいます。
後ろには銘苅もほぼそのままの格好で客を演じて搭乗してます。
流石に検問所のおっさんバカすぎるだろこれ。
「 どう考えても無理だろ!ここ通り抜けるのは無茶だろ!どうするんだ銘苅ー!!」と思ったらしょーもない変装であっさりパスするって。なにそれ。
「やっぱり、検問所は客を乗せたタクシーに弱い」とか、そんな事を白岩がドヤ顔で言いますが、それ以前の問題です。おかしい。
マジでこんなレベルの、ちょっとでも頭を冷やして冷静に考えれば「いくら映画でもこれは流石におかしい」って気づけるシーンが他にもわんさかですよ。
まず、危険な任務なのは分かっているんだから防弾ベストは全員着用しておくべきでしょうよ。
白岩も神箸も死因が銃撃って……。
特に白岩はなんで防弾ベスト着用していなかったのか、マジで疑問しかないんですが。
序盤で、防弾ベストのおかげで一命をとりとめている銘苅を描いて、その後のシーンで防弾ベスト着用してない事が原因で死ぬ主要人物がいるって、なんだかもうそれは、ただのバカにしか見えません。
実はコメディだったりするんですか。監督的にありえそうな点がまた……。
■まとめ
正直、映画そのものの構成とか展開とか、そういう部分は本当に凄くクオリティが高いと思うんですよ。
ただそれを全て土砂で流すかのように全編に渡って続くチグハグ感と、あまりにもリアリティの無い人物描写が、映画の魅力をぶち壊していると思いました。
こんなの受け止めきれない無理。
ただ、藤原竜也演じる清丸は本当に良いと思いました。
日本の映画でこういう魅力的な狂気をチラつかせるキャラクターを観られた事は嬉しいです。唯一この映画の演出がハマっていたキャラクターでもあると思います。
とにかく、色んな意味で凄い映画でした。
長々と批判的な内容を書いてしまいましたが、僕は映画ニワカです。
このブログの記事も批評とかじゃなく、あくまで素人の「感想」です。
が、そんな映画素人の僕、殆どの映画を楽しく観られた僕ですら、この映画のくどすぎる演出と演技とセリフにはドン引きしてしまいました。
この映画が本当に好きっていう人には本当に申し訳ないですが、僕はこの映画は好きじゃないです。
ただ、藤原竜也の怪演のインパクトが本当に凄まじいので、それ目当てにまた観たくなる事はあるとは思います。
ではまた。