10 クローバーフィールドレーン(2016年・アメリカ) バレあり感想 良くも悪くもJJエイブラムスって感じの映画でした
『10 クローバーフィールドレーン』(原題:10 Cloverfield Lane)
おっ、クローバーフィールドか!
えっ、何それは……。
■あらすじ
喧嘩だかなんかで彼氏と同棲していた家を出ていったミシェル。
ミシェルが夜道を車で飛ばしていると、背後から来たトラックに追突されて大きく転倒してしまった。
目を覚ますと、ミシェルは見覚えの無い少し薄暗い殺風景な部屋に居た。
腕には点滴が打たれ、けがをした右足にはプロテクターと、鍵で固定されたチェーンが取り付けられている。
部屋の扉は頑丈そうな素材で、鍵は中からは開けられ無さそうだった。
ミシェルは必死に脱出しようとするが、そこに一人の大男が現れる。
大男の名前はハワード。
ハワードは暴れるミシェルに鎮静剤を打ち眠らせる。
ミシェルが再び目を覚ますと、ハワードが椅子に腰かけていた。
そして、ハワードから「世界が何者かに攻撃され、外気は汚染されてしまった」という話をされる。
また、ここがハワードの持つ農場の地下に作られたシェルターである事もハワードは説明する。
シェルターには他に、エメットという青年も居た。
そして三人はシェルターでの生活を始めるのだが……。
■感想
・序盤は状況説明が多め
ミシェルがハワードの地下シェルターで目を覚ましてから、鍵を奪って外に逃げ出そうとする辺りまでを序盤とすると、ここは結構説明が多いパートだと思います。
基本的にミシェルの視点で物語が進むので、彼女と一緒に状況を視聴者も把握していく感じ。
なのですが、もういきなり伏線的なものをばらまき通してくる訳です。
いかにもJJエイブラムスといった作り。
最初からたっぷり味わえます。
ただ、この序盤に謎や設定をばらまくという構成で且つ監督がこの人となると、嫌な予感がする人も多いと思います。
JJエイブラムスはこの手のサスペンス的要素のある作品、とりわけドラマ『LOST』でやらかしてる事を忘れてはいけません。
伏線の組み込み方は本当に上手いです。
が、それが綺麗に気持ちよく回収されるかというとそれはまた別問題です。
かといって、謎は謎のままで……みたいな作りにも成りきらないので結構厄介なことになるんですよね。
考察させたがりなんでしょうね、JJエイブラムスは。
観た後にも楽しみを作りたい、楽しみを残したいという。
序盤はそんなエイブラムスっぽさが発揮されまくってました。
・中盤からは密室でのサスペンス的展開が加速
外に逃げ出そうとしたミシェルが、シェルターの外にいる顔が半分爛れた女性から助けを求められるシーン、ここ以降が中盤だと思います。
ここから先はかなりのびのびと作られているというか、物語の展開から見せ方、各キャラクターの背景掘り下げなんかが無理なくストーリー上にまとめられていて楽しく観られます。
そして、割と平和に三人で暮らしてる中ある日ミシェルがハワードの嘘に気付いてしまい、エメットに相談して脱出の為の計画を立てる展開になります。
この辺りの展開はかなりサスペンス的というか、結局ハワードが言った事は全部ウソなのかホントなのかみたいな部分にもフォーカスが当たって、物語の謎がより深まってます。
ただ一つ気になったのは、ハワードの一つの嘘が発覚したからと言って、他の発言も全部ウソだとほぼ認定するという、エメットとミシェルがあまりにも一方向的な思考をしていた点。
この辺りの描写は流石にミスリードさせたろ!感が滲み出てました。
あと中盤と言えば、エメット死ぬの普通に悲しい。
しかもわりかしあっけなく死ぬし遺体は酸でドロドロにされるし。
ただ、個人的にはエメットというキャラクターそのものについても、ちょっと気がかりがありました。
・そもそもエメット抜きでもこの映画は成立してる
この映画、ミシェルが目を覚ますとハワードの地下シェルターに匿われていて、
外は危険だからっつってそこで暫く暮らしてたらハワードが嘘ついてた事が判明して、
シェルターから逃げ出す為の作戦を立てて、
ハワードを倒してシェルターから脱出して、
そして終盤はそれまでのサスペンス的展開をぶん投げて『宇宙戦争』ばりの展開になります。
ストーリーの軸は全てミシェルとハワードで回してます。
そう考えるとエメットというキャラクターはこの映画には必要がない……。
もちろんサブキャラとして単に出しただけかもしれませんが、この手の、映画の始まりから終わりまで出てくる人物がごく少数に限られるタイプの作品でそんな隙間を作るかと思うとどうも……。
ハワードの嘘が発覚するシーンで、一見するとエメットの発言が決定打になってる感もありますが(ハワードが娘と言っていた女性の写真は、実はエメットの知り合いでハワードの娘では無かった)、
ここもミシェルは、その少し前のシーンでほぼ確信を持ってエメットに相談をしていますし、実はなくてもあんまり問題なかったり。
サスペンス的には衝撃の事実がわかるシーンですが。
やっぱりエメットは主軸にはほぼ関わってこないキャラクターです。
言ってしまえば完全なモブに徹しているように見えます。
何が言いたいかというと、
JJエイブラムスがそんな無駄なキャラクターをわざわざ出す訳が無いんじゃないかという事です。
つまり、エメットにも実は何か重要な要素があったんじゃないかという事です。
・ハワードとエメットの描かれ方
序盤から終盤まで、ハワードのキャラクターは、どこか高圧的で支配を好むが基本的には注意深く物事の動向を観察する男みたいな感じで描かれます。
家族に飢えた寂しい男としての要素も見え隠れしますが。
そして嘘ついてたり、実際に人殺してたりします。
なので、映画を観ている間の印象としては”悪い奴”感が演出されます。
一方エメット、劣等感から大学を去った過去を持ち、過去にハワードのシェルター作りを手伝った縁でここに来た普通の青年といった感じ。
やっぱもう完全なモブやんけこいつ。
と思ってたんですが、ちょっと待ってください。
まず、エメットは他二人に対してあまりにもキャラクターが掘り下げられていなさすぎませんか。
自分の身の内こそ少し語るものの、他に何をしていたのかとか、どこに住んでいたのかとか。
ほらこの手のキャラクター、何かありそうじゃん。
更にハワードを明確に悪役に描いてたところも気になります。
所謂ミスディレクション的な事を仕掛けていたように感じました。
ハワードが過去に監禁し、恐らく殺害した女性が、シェルター作りを過去に依頼したエメットの妹の同級生であるブリタニーという少女という点も単なる偶然には思えません。
また、エメットは作中やたらハワードの銃を奪い取る事に固執しているようにも見えました。
もしかしたら、エメットがシェルターにやってきたのは、単に避難する為だけじゃなかったんじゃないでしょうか。
過去にハワードによって殺された女性がエメットの妹の同級生であると発言があります。
例えばこれが、単にエメットの妹の同級生では無く、エメット本人とも何かしら関係のあった、というか恋人だったとかそんなんで、ブリタニーが殺された事を突き止めたエメットが復讐の為にハワードのシェルターにやってきたとか。
そんなんだったら面白いなと妄想しました。
・終盤から別の映画になる
いやホントに宇宙人出てくるんかい!!!
しかもこの宇宙船が登場する瞬間に「ベーーーーーーーン」みたいな、『宇宙戦争』(2005年の方)でトライポッドが起動した瞬間に聞こえるシンセ丸出しなSEに近い音が鳴り響いてて、もうなんか、なんか、笑わせに来てた。
終盤では、結局ハワードの言っていた「攻撃を受けた」ことはホントだったことが分かります。
外気が汚染されたというのは半分本当で半分は間違いだった事も分かります。
というのも、この宇宙船はどうやら人間を始末するのに細菌兵器っぽい緑のガスを振り撒くようで、それを直接浴びると映画中盤で出てきた皮膚が爛れた女性みたいになっちゃうみたいです。
まず言いたいことがね、
宇宙船が脆すぎ!!!!
宇宙人の索敵能力がガバすぎ!!!!(この辺りも05年版宇宙戦争リスペクトか)
ミシェル運良すぎ!!!!
正直、ここに至るまで割と上質なサスペンスが展開されていた訳ですし、
この終盤の展開は要らなかったんじゃねえかな……。
ただ、序盤のハワードの発言の真偽であったりなど一応伏線の回収には一躍買ってはいます。
正直、ミシェルが外に出て、空を飛ぶ鳥の群れや虫の鳴き声で察したシーン辺りまでで十分だったようにも思いました。
■まとめ
クローバーフィールドの精神的続編って、結局どういうことだったんだよ。
一応前作扱いになる『クローバーフィールド/HAKAISHA』とは、たしかに共通する点も見受けられます。
例えば、撮影手法は違えど、両作品とも一つの視点から状況に放り込まれて何が起きているのか徐々に判明させていく構成とか。
ただ、やっぱりクローバーフィールドの印象を持ってこの映画を観ちゃダメかもしれませんね。
むしろ、ぶっ飛び系のラストがある密室サスペンス映画として観れば結構楽しめるはずです。
普通に面白いですからね。
もっとも、JJエイブラムス監督の作品なので、案の定フォローしきれていないレベルの察し投げラストではありますが。
そして、更に続編の制作も企画されてるそうです。
という事はやっぱり世界観的にはクローバーフィールドと本作は同じ世界の話だったりするんでしょうか?
とにかく今後は、一応の三部作扱いになるのかもしれませんね。
ではまた。