サバ―ビコン 仮面を被った街(2018年・アメリカ) バレあり感想 やりたいことや伝えたいテーマは分かるけど、ちょっと中途半端な感じ
旬をすっかり過ぎてますが、サバ―ビコンの感想記事書きます。
監督がジョージ・クルーニーで主演にマット・デイモンって事もあって地味に話題にもなっていた本作。
内容としても、完全犯罪だったはずが……系の、クライムムービーの一種って感じで惹きつけられる要素は多いです。
『サバ―ビコン 仮面を被った街』(原題:Suburbicon)
■ストーリー
正に理想を絵に描いたような新興住宅地サバ―ビコン。ある日この街に黒人の一家が転居してくる。
サバ―ビコンは白人至上主義の住民が殆どを占めており、彼ら黒人の一家に対して住人達は攻撃的な感情を次第に強めていく。
そんな最中、黒人一家の隣人であるロッジ家に強盗が押し入った。
長男のニッキーは父親のガードナーに起こされリビングに連れ出される。
そこでニッキーは二人組の強盗の顔を視た。
しかし直ぐに強盗はロッジ家に住む家族をクロロホルムで気絶させる。
そしてニッキーの母であるローズはクロロホルムの過剰摂取で息を引き取ってしまった。
数日後、ニッキーは父親のガードナーに連れられ、警察署に居た。
面通しが行われ、その中に強盗二人が居たにもかかわらず、ガードナーは「犯人は居ない」と告げる。
ニッキーは父親の発言に耳を疑うが、ガードナーは頑なにその意見を曲げようとはしない。
そして、ニッキーは次第に父親と母親の妹であるマーガレットの動向に対して不信感を強めていく。
■感想
この映画、面白い事には面白いんですけど、
もう少し上手くやれたろうなって部分や、生かし切れていない要素も結構目立つ印象があります。
なんというか、中途半端に色々な要素を混ぜているイメージ。
以下ネタバレ前提になります。
・物語は基本的にはクライムムービー
この映画、主にニッキーという子供の視点を中心に描かれます。
その中で、母が強盗に殺害されて以降の父と叔母の動向の不信感であったり、隣人の黒人一家の少年とのやり取りであったりを通して物語が進行します。
そして物語の推進剤になるのはニッキーの父ガードナーの動きです。
ガードナーと強盗は裏で繋がっていて、保険金目当てに妻であるローズを殺害しました。
そしてガードナーとローズの妹であるマーガレットは恋仲にあり、ローズの殺害を以ってようやく二人は幸せな生活ができると考えます。
しかし警察の追及や強盗達からの脅迫、更には保険会社のエリート調査員の登場、そしてニッキーとのやり取りなどで、ガードナーとマーガレットはどんどん墓穴を掘っていきます。
完全犯罪だったはずが、そうした数々の出来事とハプニングが重なり、次第にガードナーとマーガレットの本性が見えてくる……というのが映画の主な流れです。
ニッキーの視点で物語が進む為、ガードナーに対する印象がどんどん気味の悪いものに変わって良く点は観ていて楽しめました。
また、この手の完全犯罪だったはずが……系の映画らしく、どんどん計画が狂っていき、それを修正しようとして更に墓穴を掘ってしまうという流れが映画全体の主な流れでもあります。
この手の作品の醍醐味だと思います。
そういう部分を観ると、かなりオーソドックスなクライムムービーの見せ方を用いてしっかり期待に応えてくれる映画ではあると思います。
しかし一方で、余分な要素もかなり散見されました。
・黒人一家のマイヤーズ家の云々は正直要らなかったんじゃないかなって
この映画のもう一つの要素が、この黒人一家が街にやってくるという部分です。
サバ―ビコンの住人達はこの一家に対して日に日に嫌がらせをエスカレートさせていきます。
ロッジ家のやり取りと、黒人一家と住人達のやり取りの2つのシーンが交差しながら映画は進行していくんですが、
この黒人一家の要素はあまり本軸に絡んで無いような気がしました。
というか、マジで何のために投入された要素なのか未だにちょっとわかってません。
オチには確かに繋がる部分です。
この映画のラストは、父も叔母も死んでしまって、尚塞ぎ込んでテレビを観るニッキーが、隣人マイヤーズ家の長男とキャッチボールをするというもの。
要は、大人のあれこれや差別がある中で、結局子供達にはそんなものは関係が無いみたいな事を言いたいのかなと僕は捕らえたわけですが。
そういう部分だけ見ればこの映画かなりポリコレに喧嘩を売りつつもポリコレに配慮しているのかも。
ちょっとそれにしてもマイヤーズ家関連は繋がりきってない印象があります。
マイヤーズ家に対する住人達の嫌がらせは映画後半で完全に度を越えていき、ちょっとしたコメディにすら近いレベルで暴走しています。
そしてその騒ぎの最中で、ロッジ家で起きている悲惨な殺戮劇に誰も気づかない、という形で一応は主軸に絡んだりはしています。
が、そうするのであればもっと簡潔な要素に留めても良かったんじゃないかなと。
冒頭からこのマイヤーズ家の要素をふんだんに推してくるので後半からラストでこの出来事がロッジ家の出来事にどう絡んでくるのか楽しみにしていたんですが、
結果としてはあまり深く絡んでないのでそこが残念でした。
結構ここが惜しい点だと思います。
・キャラクターやシーン描写はとても個性的であざとくフィクション的
この映画の好きな部分がキャラクターと描写です。
もうすっごくあざとい。
要は、そんなやつおらんやろのオンパレードなわけです。
強盗の二人組とかステレオタイプな逸れモノ感を外観から喋り方まで徹底して演出してきますし、保険会社の調査員もまた露骨に嫌らしいキャラとして描かれています。
ロッジ家の面々は特に露骨です。
ぶっちゃけそれが原因で、ローズが殺害された後10分くらいでだれが裏に居るのか分かっちゃうと思います。
ガードナーとマーガレットのキャラクターはそれだけ露骨に描いています。
ただ、それがかなり映画にマッチしている部分でもあり、映画全体の雰囲気がとても面白い空気感に包まれていると思います。
50年代を舞台にしていることから、確実に意図してやっていることでしょうけど、かなり全体的に古典的であざとい描写が出てくるので面白いです。
マーガレットが強盗に殺害されるシーンとか特に好きです。
殺害の直接描写は無く、二人の影で何が起きているか描写されます。
あざとい。
また、子供用の自転車を必死に漕ぎ倒すガードナーや、地下室でSMプレイに勤しむガードナーとマーガレットなど、地味にシュールな方向性の笑いを挿しこんでくるのも好きです。
・死の描写に関してはほぼすべてギャグの領域
この映画、人が死にまくります。
そして死ぬ描写がきわめてフィクション的な死に方のオンパレードで、実はこっちを本当は一番観客に見せたかったんじゃねえのかと勘繰ってしまうレベルです。
一人ひとりのキャラクターの最終的な印象付けが死の描写によって成立してるのが地味に面白いです。
そういうところは『ファイナル・デスティネーション』シリーズとかの手法にちょっと近いものを感じました。
保険会社の調査員は洗剤を飲み物に盛られて半狂乱になりながらストリートを闊歩し、最後はガードナーにバールのような物で粉砕されます。
そこに至るまでの過程と、ガードナーにとどめを刺してもらうまでの一連のシーンは、緊張感を生み出そうとしていたのかもしれませんが完全なブラックジョークの類になってます。
面白すぎるんだよここの流れ。
マーガレットの死は前述したように影絵で表現され、クラシックな映画にありがちな描写がなんともあざとくて面白いです。
また、殺害される直前に強盗と雑談を交わす感じもあざとい。
強盗のデブの方は、子供用自転車で爆走するガードナーに自動車で並走しながら罵声を浴びせていたら対向してきたトラックに車ごと粉砕されるという勢い一点推しの大胆な死に様。こんなん笑うわ。
ガードナーに関してはマーガレットがニッキーを殺す為に用意していた毒入りミルクをこれでもかというくらい飲みまくって1カットの後に机に突っ伏して死んでいるという、気の抜けた死に方をします。
このシーン、これでもかってくらいミルクを飲むガードナーを強調してくるので、そこもなんかあざとくて面白いです。
「ほらガードナー飲んでるよ!あのミルクのんでる!皆気づいて!」と言わんばかりの再三にわたる飲乳描写。
観客もそこまで馬鹿じゃないと思うよ!
そんな感じで、本軸である犯罪計画と、計画が瓦解していく部分よりこっちの無駄に演出がかった死の描写の方が面白いと個人的に思ってしまってます。
■まとめ
この映画、面白い事には面白いですが、やっぱり色んな部分が中途半端に絡んでいる程度に収まっているのは勿体無い点かなって思いました。
黒人一家のマイヤーズ家とロッジ家のやり取りがもっとあったりだとか、住人達のエスカレートする暴走がガードナー達の計画と絡んでくるとか、そういう繋がりをもっとあればだいぶ評価が変わった気がします。
一方でキャラクター描写と、死に様の描き方は別種の面白さがあり、尚且つこれが何ともシュールで非常に好きな点です。
なので、結論言うと妙に変態な空気感の漂うマット・デイモンの演技を楽しむのがベストな映画なのかもしれません。
良くも悪くも深く考えて観るべき映画でも無いですしね。
ではまた。