プリデスティネーション(2014年・オーストラリア) バレあり感想 パラドックスを前提に成立するループ、その一側面を描いた映画。
タイムスリップを題材にした映画の中でも、かなり異色で面白い映画です。
(Predestination)
ほんのりネタバレ。
ほんのりです。
■ストーリー
時間を行き来して悪事を未然に防ぐマン、最後の大一番でどんでん返しの巻。
■感想
「タイムスリップものが好きなくせにこの映画観てないやつなんなの?www」みたいな感じで煽られてムキーーー!!!ってなったから即座に観てやったぜ。
煽ってきたいつかの名無し君ありがとう俺も今日から煽る側だ。
本作は、大惨事になりそうな人的事象を、その事件が起きる前にタイムスリップして阻止する事を生業とする男が主人公の映画です。
この主人公の設定を観ただけで「あぁ、繰り返すうちにどんどん事態が悪化する系の奴ねはいはい」みたいに予想してましたが、
そんな予想はこの映画には欠片も当てはまりませんでした。
ぐぬぬだわ。
こういうタイムスリップモノの映画って時空移動そのものが面白いというより、それにより(どんな作品でも必ず)発生してしまう矛盾や変化の解消といった部分に物語の醍醐味があると思います。
どのような変化が起こりどのようにして解決するかという流れは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なんかが特に分かりやすく描いていますが、タイムスリップモノの定番の流れです。
この流れは一種のテンプレと言って良いのかもしれないです。
そして大抵の作品の主人公は、当初の目的の達成よりも、タイムスリップした結果起きてしまった問題やパラドックスの解決に次第に時間を割いて奔走するようになります。
『プリデスティネーション』はそうでは無いんですよね。
パラドックスが前提にあって成立しているループの一側面を描いた映画でした。
そもそも主人公そのものに始まりも終わりも無いという、かなりアグレッシブな方向性の映画でビックリしました。
主人公が主人公に恋して、主人公と子供を作り、その子供が成長したのが主人公になるという、全部オレ状態のストイック過ぎる円環構造の中で物語が進んでいきます。
むしろ、この円環構造を作り上げる為にタイムスリップという要素が組み込まれているイメージですかね。
メインストーリー最初の視点は、バーテンで実は時空警官の中年のジョンがフィズルボマーという爆弾魔の起こす事件を止める為、過去にタイムスリップしているところから始まります。
バーにやってきた男性風の女性ジェーンと賭けをして、彼女の昔話の聞き役に徹するバーテンのジョン。
そこから回想が始まり、次第に視点がジェーンに移っていきますがこの辺りかなり独特の雰囲気でした。
人によっては物語が停滞、間延びしているように感じると思います。
物凄い尺使って過去回想しますからね。
でもこの辺り個人的に上手いなと思ったのが、バーテンのジョンがタイムスリップしてきている事を最初の段階で示している点と、その目的を明確に定めてある点です。
タイムスリップした先でのジェーンの過去話の長尺、誰がどう考えたってここに何かヒントや物語の確信が隠れている事は容易に予想が付きますからね。
ジェーンの回想が終わる頃にはこの映画の上映時間の3/4が消化されているという衝撃的な情報量に震えろ。
そうやって上手く意識をジェーンの過去話に惹きつけています。
しかも前後の話の流れで「だれが爆弾魔なのか」という犯人探しのような要素も組み込んでいますからね。
ジェーンが爆弾魔を支持するような発言をしていたりと、何かある風の仕掛けをそこら中に散りばめています。
上手いですよこれは。だって結局、主人公もヒロインも犯人も全部オレっていう映画なんですから。
粋なミスディレクション。
そしてジェーンの回想が終わり、映画の残り時間が平均的なアニメ一話分程度しか残らない中での見事としか言えない怒涛の話運び。
必要な事は回想シーンで殆ど描いていますからね。
そんな構造の特殊な映画ながらも色んなテーマが込められていると思います。
この映画の結末はジョン自身が未来のジョン(フィズルボマー)を殺害するというものです。
フィズルボマーの殺害を選択した事で結局ジョンの未来も確定してしまうので、劇中で描かれた一連のループが繰り返され続けるという事でもあります。
個人的にこれ系のオチって結構な寂しさを覚えます。
人間はそうそう変われねえよ的なネガティブな方向で考えがち。
でも、オチ含めて良い映画でした。
■〆
個人評価:★★★★☆
自分自身に恋して自分自身から時空警官としての心得を学び、自分自身を最後は殺す。
絶妙なモヤモヤを心の中に残してくれるこの映画、かなり好きでした。
ではまた。