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レッド・リーコン1942 ナチス侵攻阻止作戦(2015年/ロシア) バレあり感想 女性兵士を中心に描かれる小さな戦い。ソ連の人海戦術を知っていると考えさせられるかも。

 

第二次世界大戦を舞台に、女性兵士を中心として描かれたロシアの戦争映画です。

 

 

『レッド・リーコン1942 ナチス侵攻阻止作戦』

(A ZORI ZDES TIKHIE.../The Dawns Here Are Quiet)

レッド・リーコン1942 ナチス侵攻阻止作戦(字幕版)

市街地での戦闘は皆無です。ジャケ詐欺ィ!

 

以下、ネタバレを含む感想記事です。

 

 

 

ストーリー

 禁酒家の部下が欲しいとお願いしたら全員女性の部隊が来た。

そのうちの一人がナチス工作員を発見した事で、ロシアの広大な土地を舞台に戦いの幕が開かれる。

 

 

 

感想

1942年のソ連国内の辺境を舞台にした映画です。

独ソ不可侵条約がドイツのバルバロッサ侵攻によって破棄され、ドイツとソ連は戦争状態にある中、前線とは程遠い田舎の村に駐留するフェドート・バスコフが主人公。

彼が部下に禁酒家を要請したところ、全員女性の砲兵部隊がやってきます。

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一見すると、戦場を舞台にフェドートと女性兵士達がおりなすはちゃめちゃラブコメディ的な可能性が見えてくるシチュエーション。

ですが、蓋を開けてみれば死ぬほど硬派。

フェドートと他の女性隊員との恋愛要素など(ほぼ)皆無、むしろ熱い絆で結ばれ、最後までお互いを思って戦う女性兵士達を描く超正統派戦争映画。

 

 

 

ストーリーは、女性部隊を初めとした主要キャラの背景と日常を描く前半パートと、ドイツの工兵部隊を撃退する様を描く後半パートに分かれています。

前半パートでは、戦地に送り込まれた女性の苦悩だとか絶望感だとか、そういう要素はほぼ排除されていたと思います。

ゆるやかな田舎の雰囲気の中マイペースに過ごす女性兵士達と、それに困惑するフェドートの様を描いていました。

 回想シーンがちょくちょく挟み込まれる事と、二門だけ設置された対空砲でドイツの偵察機を撃墜するシーン以外に、特に前半ではストーリー的な動きがありません。

対空砲を用いるシーンも山場という程のものではありませんし、本当に緩やかです。

ちなみにサウナのシーンがありますが、驚くほど全裸でした。ある意味で山場。

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女性兵士リタの回想シーンではドイツ戦車も登場。38(t)とⅢ号戦車でしょうか。本物使ってんのかってくらいリアルです。

 

森でドイツの工兵2名が発見され、フェドートはこれを殺害もしくは捕虜とする為に、女性兵士の中から5人を連れてドイツ工兵を追います。

選ばれた5人のうち2人は補充兵ですし、敵対するドイツ工兵もたった2名。

これまでの緩い雰囲気を引きずっている状態でこんな展開が訪れるので、ぬるそうなイメージしかありません。

正直言うとこの時点では、完全にこの映画をナメて観ていました。

でもここから、この映画は本当に面白くなりました。

 

 

 

 

 後半では雰囲気が一変し、いつでも人が死ぬ空気感がひしひしと伝わってくる戦争映画らしい空気に様変わりするのがとても面白いです。

森を進み沼地を突っ切り、数時間以上の行軍の末にドイツ工兵を発見できたフェドート達。

2人だと思っていたドイツ工兵ですが、当所発見したのは実は単なる斥候で、実際には16人からなる部隊でした。

6人では明らかにこれを阻止する事は出来ないと判断し、フェドートはリザ・ブリチキナを救援を呼ぶ為に村へと引き返させます。

しかし、リザがどんなに急いでも数時間は場を持たせる必要があり、一気に状況が緊迫します。

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残った4人の女性兵士とフェドートは様々な策を講じてなんとかドイツ工兵部隊の足止めを試みますが、やがて戦闘になり、一人また一人と女性兵士が倒れていきます。

5対16の戦闘を映画で描くとなれば、むしろフェドート達が大活躍してドイツ工兵をズッタズタになぎ倒すような展開を想像してしまいましたが、現実は甘くない。最近観た映画がジョン・ウィックとかだったんで感覚が実に麻痺します。

 

ソーニャはフェドートの巻きタバコを取りに行く途中でドイツ工兵に遭遇して殺害され、ガーリャは目の前に敵が居る状態で隠れている状況のストレスに堪え切れず声をあげ走り出したところを後ろから撃たれ死亡してしまいます。

頼みの綱の救援を呼ぶため、村へと向かっていたリザは沼地に嵌り溺死してしまいます。リザが沼地に飲み込まれるシーンは本当にかわいそうすぎるし悲しすぎます。

 

何この絶望感。前半の雰囲気がまさか恋しくなるなんて思わなかったですよ……。

残るジーニャとリタ、そしてフェドートはそれでもなんとかドイツ工兵を食い止めようとしますが、リタが手榴弾で負傷してしまいます。

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ドイツ兵をリタ達の居る場所から遠ざける為、ジーニャは単身おとりとなり、最後には一矢報いようとするもあえなく射殺されてしまいます。

ジーニャの主人公感が凄いです。弾き語りしてみたり一人だけ回想シーンが二回用意されていたり、最後も仲間の為に命を賭して戦いに赴いて派手に散っていったりと、間違いなくメイン中のメインキャラとして描かれています。

ですが、個人的にはリタがとても好きなキャラクターでした。

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物凄くロシアを感じる役者さん。

常に冷静で感情をあまり表に出さないクールビューティって感じのキャラなんですが、部隊の仲間に隠れてこっそりと子供に会いに行ったりする家族思いな側面も持つリタ。

男性兵士では描けない魅力が詰まっているキャラクターだと思います。

そんなリタも最後は拳銃で自殺します。

もうホント辛いですよ後半。回想シーンが効いてくる感じ。

 

 

フェドートは生き残ったドイツ兵を奇襲して捕虜にとります。

捕虜の連行中にようやくソ連側の救援が駆けつけ、フェドートは生き残りました。

フェドートは、女性兵士達を全員生きて返そうと奮闘していたのに、終わってみれば生き残っているのは自分だけという状況なわけで、その怒りを捕虜にぶつけようとするも留まりました。

それが虚しさに拍車をかけるだけだという事がよく読み取れるほどの、あまりに悲しすぎる雰囲気。

 

その後、失った5名の代わりに、新たに5人補充兵がやってきますが、フェドートは補充兵に戦死した5人の姿を重ね合わせていました。

兵士は畑で採れるとまで言わしめたソ連人海戦術スタイル。

この結末のシーンは、将校や政党員が兵士をモノとして考えているかのような価値観に疑問を投げかけているようにも感じました。

こういう映画をロシアでも作れるようになったんだと驚かされました。

そりゃもう21世紀ですから。いつまでソ連に魂惹かれてんだよって話だもんね。

 

 

 

ところで、女性兵士を中心にしたことそのもののテーマだとか、意義だとか、そういう部分はあまり意識できませんでした。

というか、多分そこまで大それた意味は無いんじゃないかって思います。

女性だからこそ描ける部分があって、それが戦争映画という死ぬほど男臭いジャンルに投入される事で出てくる魅力を楽しむ映画なのかなと思いました。

 もしくは、あの時代にごく自然に、当たり前のように女性が兵士として投入されていたソ連という国の異常性を描いていたのかもしれません。

 

個人評価:★★★☆☆

 

前半と後半の雰囲気の違いに驚きます。 

多数の女性兵士が登場しますが、中心的な役どころを担うのはその内の5人とフェドートなので、特に後半では各キャラクターの動向なんかがスッキリするので観やすい映画だとは思います。

ただ、その後半があまりにもストイックに戦争映画に切り替わるので、不思議と前半の女子会感が恋しくなります。

不思議な魅力のある戦争映画でした。

 

この映画、以下の動画配信サービスで視聴が可能です。

無料期間もあるので、是非お試しください。

 

 

 

 

 

ではまた。

スターリングラード(字幕版)
 
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