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ブレイク・ビーターズ(2014年/ドイツ) ネタバレあり感想 ブレイクダンスを社会主義にローカライズしようとする政府と、それに利用された若者の映画。

 

社会主義国家だった東ドイツで実際に起きていたらしいブレイクダンスブームを題材にした映画。

 

『ブレイク・ビーターズ』

(DESSAU DANCERS)

ブレイク・ビーターズ(字幕版)

ブレイク・ビーターズ(字幕版)

 予告:https://youtu.be/0q2CdtW5wJI

 以下、ネタバレを含む感想記事です。

 

 

ストーリー

分断時代のドイツ、社会主義国家である東ドイツブレイクダンス流入し若者たちが路上で踊り始める。

 

感想

東西分断時代の東ドイツアメリカ映画ビート・ストリートが公開された事でヒップホップカルチャーが流入し、社会主義国家の若者たちが次々にB-BOYへと変貌を遂げていく映画。

 

ヒップホップカルチャーで体制側に反抗するのかと思いきや、東ドイツの政府はブレイクダンスをむしろ社会主義に取り込みローカライズする奇策を提案。

こうしてブレイキンはアクロバティックショーダンスと改称され、主人公達のダンスグループ"ブレイクビーターズ"は国家主導のショーダンサーとして東ドイツ全域で大きな人気を得る事になります。

 

自分達なりに地元をレペゼンして自分達の生活やスタイルを表現するのではなく、体制側が用意した座組に沿って無理やり改変されたブレイクダンスを踊る主人公達は、ヒップホップカルチャーという視点から観ると邪道極まりない存在です。

劇中、どんなに憲兵にしょっぴかれようと何度でも路上に帰ってブレイキンし続ける若者たちの姿も描かれます。

ヒップホップカルチャーとしてのブレイクダンスの在り方は、路上の彼らの姿を描く事で表現されていると思います。

一方の主人公達は体制に飲み込まれ利用される駒のように描かれ、主人公のフランクを初めとするチームメイトはこの状況に不満を持ちつつも、成功に無理やり目を瞑り道化を演じ続けます。

 

クライマックスで東ドイツで一番人気のテレビショーに出演したブレイクビーターズは、たまった鬱憤を爆発させステージをめちゃくちゃにします。

ブレイクダンスをせずストリップショーをはじめ、暴走を目の当たりにしたチームメイトのアレックスと番組関係者、そしてビーターズの支援者であるハルトマンは顔面蒼白。

その結果解雇された彼らは路上に帰り、ストリートで頑張り続けたB-BOY達と和解し、取り締まりにやってきた警察達にダンスで反抗する、という形で締めくくられるのがこの映画。

 

主人公フランクは彼女が出来て、父とも和解して、プロのショーダンサーでは無くなったものの成功と自由を手にして、清々しい表情をしていました。

一見ハッピーエンド的な、若者が体制に打ち勝って真の自由を手に入れたエンドのようにも見えるこの映画ですが、しかしよくよく考えたら引っかかる点が多すぎます。

そもそもフランクが彼女をゲットできたのも、路上に帰って真の自由を手にした風になっているのも、親友であるアレックスを裏切った結果です。それでいいのかフランク。

都合が良すぎるし、なんかフランクのそれはズルくないか?って思っちゃいます。

なぜか劇中では悪者扱いされるアレックス、その空気感にものすごく違和感を覚えました。

 

 

 

 

この映画の真の主人公は、フランクの親友でチームメイトのアレックスなんじゃないかと僕は思いました。

当所はとても仲の良かったフランクとアレックス。

二人はチームメイトのB-GIRLマルティナちゃんに想いを寄せていたものの、喧嘩になるからお互い親密にするのは避けようと約束していました。

しかしフランクがチームメイトのマルティナと付き合い始めた事を察してしまったアレックスは、そこからどんどんおかしくなってしまいます。

そもそもアレックスも先に約束を破ってマルティナちゃんにアプローチしているんですが失敗しています。

最初は他のチームメイト同様ブレイクダンス社会主義ローカライズされる事に反感を覚えていたアレックス。

ただ一方で彼にとっての現実とも向き合い、チームの置かれた状況に折り合いをつけようと妥協する姿も見せていました。

 

ところがフランクと喧嘩して以降、露骨にハルトマンの方針に賛同するようになり、ブレイクダンスでは無くアクロバティックショーダンスとしての成功者になる事を肯定するようになります。

それは社会主義に迎合したというよりも、もっとシンプルな、嫉妬に根差したものなんじゃないかと思うんですよ。

或いは今手にしている成功と、それを続ける事で確約される成功に直向きになる事で嫌な事を忘れ去ろうとしているようにも見えました。

ブレイクダンスに対する思いを捨ててでも今の成功を追いつづけるしかアレックスには出来なかったんじゃないですかね。

アレックスにとっては頭おかしくなるくらい辛い出来事だったんだと思います。

めっちゃ理解できるんですよこの状況のキツさ。アレックスに親近感すら湧きました。

そうしている内にアレックスは政府の求めるままの姿を演じる哀しいピエロとなり、後戻りも出来なくなり社会主義そのものに呑まれてしまいます。

 

 

 

つまりこの映画、ブレイクダンスという表現手段を手にした若者が、社会主義国家の策略と思想に利用されバッドエンドを迎える映画、ルーザーを描いた映画、という風に観たらかなり筋が通った内容になる気がします。

若者が体制に立ち向かい自由を手にする、というフランクの歩む流れは確かにドラマ性が高いと思います。

ただ、それを描くのであればもっとフォーカスするべきは路上に留まり続けた若者達であって、フランク達ブレイクビーターズという、国策に利用されたダンサーという枠組みを主体にすること自体に違和感が生じているような気がします。

 

となると、体制に呑まれた結果あまりにも悲しい結末を迎えるアレックスが裏の、真の主人公的な観方をするほうが、何かとスッキリするように僕は思いました。

 

個人評価:★★★☆☆

表面的に観れば、国に利用された若者が体制に立ち向かう映画です。

ただ、その流れは主人公にとって少し都合が良すぎる感じも受けます。

 

社会主義国家がヒップホップカルチャーを無理やりとり込もうとする様を描いた作品という中々個性的な内容なので、一見の価値は大いにある映画だと思いました。

 

この映画は以下の配信サービスで視聴できます。

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ではまた。

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