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悪の教典(2012年/日本) ネタバレあり感想 原作とは違ったアプローチで描かれるサイコホラー映画。

 

邦画連続で観すぎてそろそろ胃もたれしてきた。

 

悪の教典

悪の教典

悪の教典

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 以下、ネタバレを含む感想記事です。

 

 

ストーリー

せっかく素性を隠して生きていたのに、正体を暴こうとしてくる連中が現れたので動き出してしまったサイコキラーの話。

 

感想

原作小説の悪の教典は、蓮見のサイコパスとしての質の部分、どういう思考や発想から殺人が合理的な手段して彼の中で成立しているのかを丹念に描いていたと思います。読んでからしばらく時間経ってるので印象違いかもしれないですけど。

常人の感覚と剥離したサイコパスの思考を知る事で見えてくる恐怖を下地としているイメージです。

悪の教典(上) (文春文庫)

悪の教典(上) (文春文庫)

 

 

対してこの実写版は、原作とは真逆の方向性で蓮見を描いていたと思います。

それはつまり、わからない怖さにフォーカスしたようなイメージです。

特に後半の超山場となる、文化祭前夜の校内で生徒を狩る蓮見の描き方が正にこれで、蓮見がなぜ自分の秘密を知ったものだけじゃなく大勢の生徒を理不尽に巻き込む形で殺害しようとしたのか、その動機や理由が語られているようで語られていない濁された感じになっています。

自分の都合の為に合理的な判断として大量殺人に乗り出すんですが、じゃなぜそんな判断に及んだのかが伝わらないような、そんな濁し方です。

 

印象としてそれは理由の無い快楽殺人のようにも見えますが、しかし校内大量殺人に至る以前の蓮見が人を殺すとき、いずれも蓮見の秘密を探ろうとした相手を殺しているという理由付けが明確なために、校内大量殺人シーンでは逆に意図して混乱を持ち込むような形にしているように思いました。

 

 

また、実写版でも常に物語の中心に蓮見の存在がありながら、彼の思考や過去に関する描写を意図的に省き、代わりに同僚の先生や生徒達からの視点を通して蓮見を描くような形になっていました。

これも原作との違いの一つで、実写版の蓮見は不気味さをより強調させようとしている気がします。

 

 

 

 

この原作との印象の変化はそのまま、作品のジャンルの変化にも繋がっていると思います。

原作がサイコスリラー感満載の内容だったのに対して実写版はサイコホラー色をかなり強めている気がします。

ホラー映画のテンプレ的描写も存分に見受けられますし、蓮見のショットガンに彼の妄想が生み出した存在がやたらとグロテスクさを強調したデザインになっている事もそうです。

 

何より、生徒や同僚視点からみた蓮見を重点的に描いた事で、終盤クライマックスの蓮見の大量殺人シーンでは逃げまどう生徒達の混乱が原作よりも顕著に描かれ、知っていると思っていた人が全く別人だった時の気持ち悪さも並行して描き出していたように思います。

 

 

 

 

ちょっとホラー映画的な要素についての感想になりますが、終盤の展開で蓮見にどんどん高校生が射殺されていきますが、あそこはホラー映画だからこそのバカバカしさを上手く隠しているシーンでもあったと思います。

 

映画の都合でバカになるキャラクター達、について今までもいろんな映画の感想記事では言及していますが、実写版『悪の教典』に関してはここのバランス感がかなり上手い気がします。

それまで信頼関係を濃く築いていたはずの蓮見先生が襲ってくるという、生徒からしたら意味不明な事態が突然巻き起こるわけで、それを冷静に理解して対処できるかというと微妙だと思います。

この意味不明な状況という部分を映画版は強調していたので、生徒達がほぼ反撃もせずひたすら逃げまどうだけの的になっていたのも、場がいかに混乱しているのか印象付けているのでそこまで違和感を覚えませんでした。

 

ヤバい奴から逃げ狂う大勢を描くとき、どうしても反撃要員がいないと生々しい怖さや状況が描けないシチュエーションってあると思うんですが、この映画は反撃するだけの余裕を持った存在が殆ど排除されたような状況で事件が巻き起こるので「なんでコイツそこでこうしないの?」的な謎行動が少ない気がしました。

窓の外に隠れていたのに窓をうっかり閉め忘れて発見される二人の生徒とかも、なんか高校生のメンタルでそこのケアするの難しいよねみたいな理解ができる謎行動なので、観ててイライラするとかが無いです。

 

 

 

終盤の大量殺人シーンにばかり言及してる感じになってしまいますが、これは上に書いた通り蓮見の描き方が意図的に変更されている事が理由で、原作よりむしろハイペースで人殺しを始める実写版の蓮見が、それまでとは逆に一般的な感覚とは別のところで動いている存在として確定付けられる場面だと思ったからです。

つまり映画版の要素はほぼこのクライマックスと言える大量殺人シーンに込められているような印象。

 

逆に、サイコパス特有の偏屈な完璧主義みたいな部分は大幅に描写から削がれていて、この事が蓮見のキャラクター像を良くも悪くも濁しているとも思います。

原作と恐怖の方向性を変えた結果、その辺りのサイコパスがどういう特性や思考をしているのかに関連する要素の殆どが消えてしまった事は確かです。

それがまた原作では魅力に感じた部分だったので、キャラクターの造形については物足りなさを感じる部分もありました。

 

 

個人評価:★★★☆☆

原作の魅力だった蓮見の内面や思考の描写を意図的に削ぎ、サイコでホラーな路線に切り替えたような印象の映画。

このことで結果的には良くあるサイコホラー映画やスラッシャー映画と近似するようなイメージの映画にはなってしまったと思いますが、とは言え原作を別の視点や要素から組み直して上手く映画として再構成している印象で、普通に面白いと思います。

 

現在、以下の配信サービスで視聴できます。

ではまた。

 

 
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