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1917 命をかけた伝令(2019年/イギリス・アメリカ) ネタバレあり感想 唯一無二の戦争映画だと思う。

 

 今までにないタイプの戦争映画だと思うし、この先もこんな映画は出てこないんじゃないかって気がする。

 

『1917 命をかけた伝令』

(1917)

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画像出典元:映画『1917 命をかけた伝令』公式サイト

 予告:https://youtu.be/GyGosOlFlZE

 以下、ネタバレを含む感想記事です。

 

 

ストーリー

大切なものの為に戦地を駆ける。

 

感想

第一次世界大戦時のイギリスとドイツの戦線を舞台に、伝令を任された二人の若いイギリス兵士が戦地を駆ける様を描いた作品。

 複数のカメラで同時に撮影したシーンをそれぞれシームレスに繋ぐことでワンショット風に見せる、という手の込み過ぎた方法で撮影された(ほぼ)ノンストップ戦場ジョギングが最大の見どころであり魅力でもあります。

 

 ワンカットの映画と言えば、近年ではバードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や、一人称視点+ワンカットで展開する『ハードコア』、日本でもある意味ではワンカット撮影がフォーカスされている『カメラを止めるな!』などがありました。

 あとはファウンドフッテージ系の映画などはワンカットで進行するものもあります。

というかヒッチコックの『ロープ』という先駆者的なワンカット風映画が1948年にすでに存在していますし、この手法自体は目新しい訳ではありません。

没入感や臨場感、あるいは共感性を刺激するのに有用な撮影技法のひとつだと僕個人は捉えています。

 

この映画もまた全編ワンカット"風"の映画です。

 戦争映画で且つ全編ワンカットっぽいという事前情報だけで面白そうな雰囲気がとてつもなく漂っていましたが、実際その中身を観てみたら予想を遥かに超えたクオリティの映画でした。

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史実ベースで事実を基にしたフィクション映画という性質を、作品構造にうまく落とし込んでいるように思います。

それはつまり、多くのワンカット映画が主人公の視点を中心に描いていくのに対して、この映画は状況を中心に描いているんじゃないか、という事です。

否応にも進行する状況の中で主人公の行動を描く、みたいなイメージ。

このニュアンスの違いは微細に思えて結構大きく異なるものなんじゃないかと思います。

方向性としてはドキュメンタリー映画なんかに近いニュアンスな気がします。

この映画で言えば、第一次世界大戦下のとある戦場での出来事を神の視点で捉えたみたいな感じです。

ともすればワンカットという手法を用いる必要性が感じられない気もしますが、そこにはまた別の要素が加えられていて上手い作りの映画だと思います。

 

 

ドイツ軍の罠を察知して攻撃中止命令を将軍から託されたウィリアムとトム。

序盤はこの二人が危険な任務をこなす姿を緊張感たっぷりに描いています。

しかしトムが死亡してしまったことでウィリアムの目的が、命令の伝達からトムの兄にトムの死を伝えるという事に切り替わったように感じます。

それは同時にウィリアムが危険な戦場を駆ける理由にも繋がっているように思いました。

 

ウィリアムは名誉に対して価値を感じていないような描写がありました。

勲章として貰ったメダルをフランス兵士の食料と交換した、というエピソードがトムとの雑談の中でチラッと登場します。

つまり、ウィリアムにとって従軍は少なくとも名誉のためでは無く、伝令を頼まれたのもトムの誘いがあったからであり、そのままの状態では彼が命を賭ける理由が無かったりします。

トムの死によってウィリアムが命を賭ける理由が生まれたからこそ、様々な形で立ちはだかる困難な状況をウィリアムが乗り越えていく姿に力強さが感じられるんじゃないかと僕は思います。

 

 

そしてワンカット風という仕組みを逆手に取り、リアルタイムでは無いのにワンカットで進行する映画という、ある種のトリックのような作りを内蔵しているこの映画。

劇中で進行する実際の時間は上映時間を遥かに超えているのにも関わらず、それをあまり意識させない作りには驚きました。

ウィリアムが気絶するシーンくらいしか、時間経過を露骨に体感させる為のシーンがありません。

 

例えば、ウィリアムが死にゆくトムを看取るシーン。

いつの間にか友軍が現れ、彼らと共にトムを埋葬します。観客目線ではトムの死から友軍の登場までは数分の出来事なのですが、実際は恐らくかなりの時間ウィリアムはあの場でトムと過ごしていたんじゃないかと思うんですよ。

このシーンで言えばただ時間だけが過ぎていく虚しさみたいな感覚を、ワンカットに落とし込む事でリアルタイムと劇中時間のラグを利用しつつ描いているような気がします。

この後に友軍の上官から「悲しみにくれるな」的なアドバイスを貰ってウィリアムは直ぐに前進を続ける訳ですが、劇中での経過時間が相当なものだとすれば、このセリフの意味合いもちょっと違うニュアンスで捉えられたりして面白いです。

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しかもこのトリック的な手法と、前述のウィリアムの行動理由という堅い地盤を活かして、実に様々なシチュエーションが登場します。

第一次世界大戦の代名詞とすらいえる塹壕の張り巡らされた戦地、ボカージュのような平原地帯、破壊されつくした市街など、盛り沢山でした。

 戦場+ワンカットという組み合わせのもたらす異様な臨場感と魅力が、様々な戦地が描かれる事で堪能できました。

これはシンプルにアトラクション的な面白さなんだと思います。

 

そして圧倒的な美術クオリティの背景描写の数々。

戦場に廃棄された菱型戦車、廃墟の街で燃え盛る教会、塹壕から飛び出し攻撃を仕掛ける兵士達、これらを眺めているだけでも十分すぎると思えるほど視覚的な満足感の得られる映画でした。

 

 

個人評価:★★★★★

 

名誉のためでは無く、友人の為に戦地を駆け抜けた若者の姿を臨場感たっぷりにワンカットで描いた映画。

そこに戦場+ワンカットというスリリングすぎる前代未聞の要素を加えたおかげで、唯一無二の戦争映画に仕上がっていると思いました。

 

昨年の個人的な殿堂入り映画『T-34』も、オーバーグラウンドなエンタメ戦争映画という素晴らしい路線を開拓していましたが、本作1917は撮影技法とシチュエーションを組み合わせて戦場を体感するという路線を見出し、これもまた新しい戦争映画の形のように思います。

 

 

ここ最近の戦争映画豊作すぎませんか。

ではまた。

 

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